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祭 40

 ドアがノックされた。  「どうした」  アイツはオレを抱き締めながら言った。  「・・・彼にあいたい」  あの子の声だった。  運転席でコイツの部下達と待っていたが、オレに会いたくてはたまらなくなって来てしまったのだろう。  「もうすぐ二部が始まります」  アイツの部下の遠慮がちな声も。  ほんの一瞬。  ほんの一瞬。  アイツの腕が緩んだ。  でもアイツはオレを離しはしなかった。    オレを抱き締めたままあの子の前に立とうとしていた。  オレに本気で自分をくれる気なのだ。  ああ。    オレは悟る。    ああ。  お前はあの子を愛してるんだな。     それでも。  そしてもう一つ真実に気付く。  嘘つきが何故オレを置いていったか。  嘘つきは・・・もし自分がオレの元へ帰れなかった時には、アイツの元へオレを返す気だったのだ。  全ての縛った意志を外し、嘘つきへと縛り付けていたものから解放したのはそのためだ。  あれほどまでにオレに執着した男が、オレをオレの愛する男の元へ送ろうとしていたのだ。  オレが嘘つきを世界の全ての代わりに望んだお礼に。  嬉しかったのだ嘘つきは。    そんなにまで。  ただ殺すだけではあきたらず、その人間のいちばん大切な部分を利用し人間を操ってきた化け物。  自分の為に死んで行く人間達を嘲笑う悪魔。  人の心の一番大切なものを踏みにじるサイコパス。  そんな嘘つきがオレを・・・オレの好きな男の元へ送ろうとしたのだ。  オレの為に。  本当は誰かに渡す位なら、殺してしまいたいくせに。    オレを・・・愛しているから。  オレはオレはオレは。  嘘つきに愛されていたことを、今確信した。  オレはアイツに微笑んだ。  そっとその唇にキスをした。  重ねるだけの。  お前はオレのものだった。  確かにオレのものだった。  さっきまでのあの短い間。    お前は確かに全部くれた。  それがどれほど嬉しかったかお前にはわからない。  お互いもう萎えてる。  そう、そういうことだ。  オレの微笑みの意味が分からず戸惑うアイツの腕を振り切り、オレはドアを開けた。  アイツの部下を後ろに従えてあの子が立っていた。  「  」  あの子がオレに微笑む。  オレの名前を呼んで。    オレにしか見せない笑顔で。    「愛してるよ」  オレはいつもの言葉を囁く。  アイツを苛立たせるために始めたやりとりは、いつしか本当の言葉以上になった。  「私もだ。愛している」  あの子は真っ直ぐにオレを見つめて言う。  アイツに抱かれるこの子への痛ましさ。  アイツに抱かれるこの子への羨ましさ。    アイツに愛されるこの子への妬ましさ。  アイツを愛するこの子の清らかさ。  全部含めてお前を愛しているよ。    「・・・どうした?」  あの子はただじっと自分を見つめるだけのオレに不思議そうに聞いた。  オレはあの子の側に立とうと、車の外に出た・・・ように見せかけて、オレはアイツの部下の銃をすりとった。  やっぱりアイツと同じで脇の下にホルスターでぶら下げていた。  オレは情報を盗むために、本物の掏摸以上に掏摸行為が上手い。  ジャケットを一瞬でまくりあげ、抜き取り、流れるように安全装着を外し、あの子の頭に突きつけた。    「やはり、まだ詐欺師の支配下に!!」  部下は叫んだが動かない。  詐欺師の支配者にあるならオレはこの子を遠慮なく討つからだ。  「・・・バカなことは止めろ!!」  アイツも怒鳴った。  全然バカなことじゃない。  オレは思った。    あの子だけは銃を頭に突きつけられようといつも通りオレを見つめていた。  信じ切った瞳で。    

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