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The show must gone 7
「Bravo!!」
僕は叫んで手を叩いた。
素晴らしい手品だった。
この女は本当に素晴らしいマジシャンだ。
僕は有名なマジシャンのショーに何度も行ったことがあるが、ここまで見事なショーをみせてくれたマジシャンはいなかった。
飛び散る肉片、潰れる肉体、轟音と破壊のスペクタクルだ。
「最高!!」
僕は思い切り手を叩く。
「天井が・・・崩れるなんて・・・」
ガキが茫然と呟く。
会場は静まり返っていた。
女は微笑み、全ての人間の視線を取り戻していた。
「天井なんか潰れない。ほら、照明はステージを照らしている」
僕はガキに教えてやる。
そう、落下したモノはステージをへこませ、壊してはいるけれど、ステージの上にライトは降り注ぐ。
つまり、天井は本当には壊れていないのだ。
誰も気付いていないけれども。
「落とすものを用意してあった。天井に吊すなりなんなりしていたんだろう。そしてそれを落下させただけだ」
簡単すぎる仕掛けの簡単過ぎる手品だ。
何かスイッチのようなもので、落下してくる仕掛けだろう。
それほど難しい仕掛けはいらない。
そして女はそれが落ちてこない場所に立っていただけだ。
ただこの女の誘導は完璧だった。
女は視線や言葉、自分が後ずさる動きだけで、信者達と詐欺師が落下物の下敷きになるように誘導したのだ。
「あの女、最初から詐欺師や信者達を潰してやるつもりだでったんだよ」
僕はぽかんとしているガキに教えてやった。
最高のマジシャンだからこそ出来る技だ。
詐欺師達は登場した時から女に誘導させられていたのだ。
女は信者達を抱き締めるように手をのばす。
信者達は再び声を上げた。
力はしめされた。
ここにいる女こそ、彼らの神なのだ。
潰れた肉体達が捧げられた祭壇のようなステージで、女は自分の物である信者達を不敵に見下ろしていた。
「助けに行かなくて良かったの?」
ガキが混乱している。
「どちらを助けるんだ?どちらも殺し合うつもりの悪者同士だぞ。この女が勝っただけの話だよ。ほっとけ」
僕は心の底から言った。
僕は正義の味方だ。
悪人は殺しても、助けない。
素晴らしい出し物に会場中が、いや、中継先の会場でも信者達は声を上げていただろう。
女は会場の信者達に手をふりながら、僕の方をちらりとと見た。
首が潰れて動けない詐欺師を、今の内に確保しろってか。
僕を助手扱いとはね。
だが、今の僕の機嫌は悪くない。
何しろこの女のマジックは面白かったのだ。
「ガキ。詐欺師を確保しろ」
僕はガキに言った。
確かに嘘つきはありがたく回収させてもらおう。
女のお手柄だ。
嘘つきは頭が潰れた位では死なない。
動き出すまえに持ち帰ろう。
肉体労働はガキの領分だ。
僕はタキシードが汚れるから嫌だ。
今夜の主役は僕だから。
「うん」
ガキは素直に頷いた。
ガキのバカ力なら潰れた身体の上に乗っている鉄材など簡単にのけられるだろう。
でもガキが潰れた詐欺師を回収する前にステージに挙がってきたヤツがいた。
戸惑う位、普通に。
場違いな位、当たり前に。
しかもこの季節にTシャツと短パンで。
異様な盛り上がりを見せている会場の雰囲気を全く気にもせずに。
情報屋だった。
詐欺師の頭を潰れていた鉄材をのけて、情報屋は淡々とした声で言った。
綺麗に頭だけ詐欺師は潰されていた。
「おい、『帰る』ぞ」
頭が割れ、ピンクの脳髄を撒き散らし、眼球を飛び出させてていたソレに情報屋は囁いた。
僕は詐欺師をナメていたことを知る。
詐欺師は肉体的には弱い。
訓練した男一人で制圧できると思ってた。
オマケにコイツの能力は効かない人間には効かないし、オマケに直接的に攻撃できる能力ではない。
コイツは捕食者であっても僕を殺せない。
だから、ナメてた。
何度となく出し抜かれていても。
だから出し抜かれてきたんだ。
ナメてたから。
僕は正直驚いた。
情報屋が声をかけたとたん、首を潰された身体はなんでもないように起き上がった。
頭は潰れ足元に転がしたまま。
詐欺師は・・・頭を失っても動けるのだ。
そういうタイプの捕食者がいることは知っていたのに。
転がった潰れた頭の口が動いた。
飛び出した眼球が下から情報屋を見上げた。
「 」
間違いなく潰れた頭は情報屋の名前を呼んだ。
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