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The show must gone 13

 あの人がおかしくなった。  あの人は笑いながら情報屋を詐欺師からたやすく引き剥がした。  そして、右手の銃を詐欺師に向けた。   嬉しそうに歪む顔。  あの人は人を殺す時こんな顔をする。  楽しくてたまらないような、悪意が吐き出される顔    それは醜悪で、それでも・・・美しい。  だけど、俺はこんなあの人は・・・嫌だ。  俺は目をそむけようとした。  あの人が酷いことをしているときにそうしたように。  ただ、詐欺師が笑ったのだ。  俺は目をそらすことができなくなった。    だって詐欺師はあの人に向かって・・・  青い言葉を吐いたのだ。  「   」  それは人の名前だった。    その言葉は青く詐欺師の唇からこぼれ、あの人の中に吸い込まれていった。  何、今の何?  「何が起こっている?」  スーツが訊ねる。  スーツも中継の映像で舞台の上でおこったことを確かめているはずだけど、スーツには青い言葉は見えないし聞こえなかったのかもしれない。  「わからない。詐欺師があの人に何かした。あの人が動かなくなった」  俺はそうとだけ言うと、あの人の側にすぐに走った。    引き剥がされ、床に転がされていた情報屋がまた、詐欺師の前に立つ。  そんなのは気にしない。   それどころじゃない。  ぼんやりと立っているあの人の肩を掴んで揺さぶった   あの人は反応しない。  俺に揺さぶられるままだ。  右手の銃が溶けて形をたもてなくなり、ただの腕に戻っていく。  俺は詐欺師を睨みつけた。  何をした。  洗脳?  バカな。  この人にそんなこと出来るはずがない。    世界で一番身勝手で、世界で一番好き勝手に生きている。  何かに縋ったり許されたいなどと思うはずもない人だぞ。  「誰の心にもギザギザがある・・・」  ふと、あの子の言葉が思い出された。  あの子は言った。  詐欺師が欲しがる全ての暗号を渡した、と。  人間の心にも暗号がある、と。  詐欺師を信じることはその暗号である鍵を詐欺師に渡すことだ。    俺の「あの人を愛することを許して欲しい」みたいなものだ。  信じなければ渡さない。  でも、もし、詐欺師を信じていなくても、詐欺師に鍵が先に手渡されていたならば?  あの子が・・・詐欺師にあの人の鍵を渡していたならば?  「あんた、どうしたんだ。あんた大丈夫か!!」  俺はあの人を揺さぶった。    あの人はぼんやりしたままだったが、ふと笑った。  その微笑みの優しさに胸をつかれた。  こんな時なのに俺はその鮮やかさに驚いて見とれてしまった。    あの人の表情はいつもどこか意地悪で。  悪いことを楽しんでいる時だけ本当に無邪気に笑ってて。  俺に向かって笑う時も、どこか苦さや皮肉が混じってて。  それでも隠したような照れや優しさが滲んでて俺はそれが好きだったけれど、今のこの微笑みは違った。  隠そうともしない優しさで溢れていた。  あの人は優しくしたりするのを投げ与えるように、もしくは照れくさそうにする人なのに、その優しさは当たり前のように溢れていた。  あの人は俺を優しく見つめた。  キスされた。  それは、いつもされる奪われるようなキスではなく、俺を怖がらせないようにするかのような優しい優しいキスだった。    こんなキス。   知らない。  いつも欲しがられて、奥まで奪われるようにキスをされ、全部を差し出すことを求められるのに。    優しいされたことのないキスに俺は震えてしまった。  今自分がステージの上にいることも、これが中継されていることも忘れてしまっていた。  俺のキスが優しいとあの人は言った。    でも、この人が今するキスの優しさに俺は泣きそうになった。  まるでそれは、なくなったものを呼び戻そうとするかのような、優しい優しいキスだった。  物語の死者を目覚めさせるようなキスだった。  俺は思わずキスに溺れた。    好きな人にこんなキスされて溺れずにいられるわけがない。    優しいキスに応える。   応えてしまう。  泣きたくなる位優しい。  でも。  でも。  おかしい。  どうしたんだ。  身体を弄られ、ボタンが外されシャツがめくられる。  あの人が正気じゃないのは解っていた。  その指の優しさに、思わず溺れそうになるのをこらえて、俺はあの人を押しのけようとした。  何だよそれ。  いつもしたかったら、服のボタンなんか引きちぎるくせに。  なんなら俺に自分で脱げとか命令するくせに。  俺だけ全裸にして、俺を羞恥させて喜ぶ変態のくせに。  そっとボタンを外す指の優しさに震えた。  そっとシャツをめくる動作の優しさに感じた。   怖がらせないように。  怖がらせないように。  そんな思いが伝わってきて。    俺と初めてした時は解したりこそしてくれたけど、気持ち良いのが怖くて泣く俺を、構わず一番奥まで突きまくったくせに。  遠慮無しに初日から何から何までおしえこまれたのに。  喉の奥から、身体の一番奥まで擦られ、突かれ、俺は叫び、泣かされたのだ。  怖くても許してくれなかった。    好きなだけ貪られ、お前は「僕の穴」なんだと囁かれた。  「可愛い」とだけは何度も言ってくれたけど。  なのに、なんだよ・・・これ。  優しく甘い指に甘やかされる。  俺は戸惑っている間に床にそっと横たえられていた。  てか、おい!!  俺は慌てた。  ここはステージの上で、これは他の会場に中継されているって!!  俺は正気に戻る。  いや、この人も正気に戻ってもらわないと。  白昼の公園で抱かれたことなんか、これに比べたらたいしたことはない。  なんで、1000人以上の前で公開セックスしないとダメなんだ。  俺は俺の上にのしかかるあの人をはねのけようとした。    仕方ない。  力任せにいくしか・・・。  しかし、俺の身体はピクリとも動かなかった。  どう押さえつけているのかわからないけれど、あの人は俺の身体の自由を奪っていた。  しかもシャツは完全にまくられはだけられ、ズボンも膝までずり落ろされていた。  いつの間に?  いつの間に?  そんなところで達人なところを見せなくても・・・。  「バカ!!目を覚ませ!!バカ!!」  俺は怒鳴った。  あの人は優しく艶やかに笑った。    「怖がらないで・・・大丈夫。絶対好きになるからコレ」  あの人は吐息で囁く。  何だよ。  いつも俺には有無も言わさず突っ込むくせに。  したければこの人は俺の手足の関節を外して動けなくしてでもするはずだ。  そういう人だ。    「どうなってる?」    イアホンからのスーツの声。  「あの人が洗脳された。・・・助けて」  俺は公開セックスだけは嫌でスーツに助けを求める。  「・・・私にその男が止めれるはずがない。なんとかしろ。最悪会場ごとそこにいる人間焼く」  スーツは言った。  「なっ!!」  俺は驚く。  その間にもあの人の唇がもう剥き出しになった俺の乳首の上に落とされた。  「・・・洗脳された一千人。危険すぎる。詐欺師をなんとか出来ない時は殺せとの命令が出てる」  スーツは感情のない声で言った。  スーツはそうするだろう。  そうしなければならないのなら。    スーツもそういう男なのだ。  「しっかりして、あんた!!みんな焼かれちゃう!!」  俺はあの人に叫ぶ。  でもあの人は俺の言葉なんか聞こえないように俺の乳首を優しく舐めた。   優しい舌使いに思わず震えてしまう。    「だめだって!!」  俺は叫ぶ。  やだ。   吸うな。  そんな風に、舐めてから吸われたらダメだ。  やだ。  俺はこの人に散々開発されて、乳首だけでイける身体にされている。  あの人は性器に触らず、後ろの穴や乳首だけでイカせるのが大好きなのだ。     「みんな死ぬんだよ!!」  俺は叫ぶ。  ベッドでされたなら、すぐに溺れただろうその唇と舌は、いつものとは違い本当に優しくて。  優しさに物足りなくて。  でもその物足りなさがまたよくて。  俺の腰が跳ねてしまう。  あの人におしつけるように動いてしまう。  無意識だ。  でも必死で逃げようとする。  こんなことをしてる場合じゃない。  あの人がそんな俺の動きにクスリと笑った。  「もうゆるしてあげない。・・・もう僕達は人形じゃない。・・・だから、するね」  首筋を甘く吸われた。  乳首が優しく摘ままれ、潰される。  甘い疼痛に思わず喘ぐ。  ヤバい。  勃起してる。  まだかろうじてずりおろされていないボクサーパンツからはみ出しそうだ。  やめて。  1000人の前ではやめて。  それだけはやめて。      

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