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The show must gone 18
詐欺師は全く動じなかった。
そう。
今俺が再起動させたけど、詐欺師はまたあの人の中に入れる。
俺は山刀を拾って跳んだ。
詐欺師の頭をかち割るために。
でも、詐欺師は俺に頭をかち割られながら、その唇から青い言葉を吐き出した。
「 」
それはあの名前。
おそらくはあの人の恋人の名前だった。
それはあの人に吸い込まれていく。
遅かった!!
俺の山刀は脳天から肩まで詐欺師をぶったぎった。
脳天から鼻、口、肩、メリメリと詐欺師の身体は裂けた。
綺麗な断面を見せて血を吹き出し、詐欺師の頭半分と右肩は床に落ちた。
斜めに輪切りにされた頭部の一部と、詐欺師の身体の方は平然と立っていた。
床に落ちた方の首が楽しげな笑い声さえたてた。
これくらいでコイツは死なない。
観客席の信者達はもう声さえたてない。
でも詐欺師に青い言葉は吐かれてしまった。
あの人を支配する言葉が。
また詐欺師の作り出したモノに捕まっているのなら・・・。
俺は山刀を構える。
あの人の脳天もぶち破って・・・また再起動・・・。
あの人は特に変わり無かった。
ぼんやりもしてない。
目はいつものように鋭い光を放ってる。
でも・・・一応・・・再起動・・・。
「おい、止めろ」
あの人が嫌そうに俺に言った。
洗脳・・・されてない。
良かったけどなんで?
不思議そうに床の上に転がった詐欺師の頭もあの人を見つめた。
詐欺師の身体はそんな頭を拾って、もとの位置にもどした。
触手が身体と頭から互いに出てきて絡みあう。
まるで触手で肩からぶら下がるようにして、斬られた頭は身体にくっついていく。
うわぁ・・・何回見ても、俺もこうなるんだけど、コレ、気持ち悪い・・・
しかし詐欺師の身体は瞬く間に再生していく。
今まで出会ったどの捕食者よりも再生速度が速い。
あの人の銃以外ではどんな武器も意味がないだろう。
本当にすぐに回復してしまうのだ。
詐欺師は触手が絡み合い、斬られた場所かまだ完全に繋がっていない位置が少しずれたままの状態でまた唇を開いた。
蠢く触手が繋がりかけた断面から覗くのが、詐欺師の顔が美しいだけに気味が悪かった。
「 」
また青い言葉が零れる。
その名前に俺は胸が痛くなった。
俺はこの名前が嫌いになるだろう。
この名前をどこかで聞く度に、俺は多分苦しむんだろう。
その名前が初めて詐欺師の唇からでてきて聞いた時のあの人の顔をずっと思い出すんだろう。
名前だけで・・・人を永遠に縛れることを俺は初めて知った。
でも、あの人はもう顔色一つかえなかった。
「無駄だ」
あの人は冷たく言った。
詐欺師が不思議そうな顔をした。
何故?
何故?
俺にも詐欺師にもそれが分からなかった。
俺はあの人を愛することを許されたい、その気持ちを利用され支配された。
俺が詐欺師の支配下から逃れたのは、その望みをすてたからだ。
俺はもう許されたいとは願わない。
俺のこの想いに救いはいらない。
でもこの人は誰かへの愛を利用されて支配された。
この人がその誰かへの愛を手放すはずがない。
悲しいけれど、誰かの代わりに抱かれて・・・それは良くわかった。
この人はその誰かを愛している。
今なお、優しく強く、思い続けている。
詐欺師は人の願いや想いを、捨て切れない切ない願いを使って人の心を支配する。
この人が願いを捨てるはずがない。
あの人は。
願っていたのだ。
ずっと。
死んだ恋人に会いたいと。
「・・・お前は最低の下衆だよ。人のことは言えないと思っていたけど、まさか下劣さ加減で僕が負けるとはね」
あの人は笑わなかった。
いつもなら皮肉に冷たく笑うのに。
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