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The show must gone 20
「終わりだよ、ゲス野郎」
あの人は言った。
右手が溶けて銃に変化する。
詐欺師に向かって撃つ気だ。
だが詐欺師は笑った。
青い言葉がはきたされる。
「 」
意味のない言葉。
叫べとかそういったような言葉だ。
青い言葉は宙浮かび、ふわりと空気にとけた。
次の瞬間、会場が揺れた。
凄まじいどよめきで。
信者達が、声を限りに叫んでいた。
ただ叫んでいた。
詐欺師が命じたから。
壊れた機械みたいに、ただただ必死で声を絞り出す。
顔を歪め、真っ赤になり、酸欠になりながら誰もが叫び続けていた。
命令だから。
叫びすぎて、倒れる者までいた。
そう。
そうだ。
信者1000人は、詐欺師のモノだったままなのだ。
「殺すな。殺したからと言って・・・詐欺師の洗脳が解けるとは限らない」
スーツがイアホンから言った。
叫びがすごすきて、耳の中から直接じゃなければ聞こえない
そうか。
そうなのか。
あの人が詐欺師の頭を吹き飛ばし、詐欺師を消し去ったところで・・・終わりじゃないんだ。
それでも詐欺師の声は、こんな大音響の中でも何故か聞こえた。
詐欺師の唇は青い言葉を吐き出した。
「 」
それが「殺せ」と言う言葉なのは・・・すぐにわかった。
300人近い信者は全員、ステージの上の俺達に向かって走り出してきたからだ。
前にいる信者を踏み潰し、躓き、潰され、信者達はその勢いの割にはステージまで到達するのに時間がかかった。
走る系のゾンビの映画を見た。
あのゾンビ達みたいだった。
あの人の右手は銃から刀に変わっていた。
この人、信者達を斬る気だ。
この人なら300人斬りだって出来るかもしれない。
だめだ。
でもだめだ。
一人でも・・・殺しちゃいけない。
このステージで最初に殺されるのは・・・。
俺は代表の女の人を担ぎ上げた。
女の人は驚いた声を上げたが気にしない
俺は演壇に駆けあがった。
俺の拳は演壇の木をぶちやぶった。
ああ、あの人のいった通りだ。
演壇には隠し部屋があった。
殴って破かれた衝撃で隠し扉が開いた。
女の人をそこに投げ入れる。
「出てこないで」
俺は女の人に叫んだ。
そして扉をしめた。
正気じゃない信者達は今見えてるモノ・・・僕達を襲ってくるはずだ。
あの人のそばに行く。
信者達はたがいに殴り合い、引きずり合いもしているため、ステージに上がるのに時間がかかっている。
あの人はやる気だ。
全員斬る気だ。
全員殺して詐欺師を殺すつもりだ。
「 」
何かスーツに指示していた。
多分この会場と他の会場の封鎖だ。
おそらく詐欺師がねらっているのは騒ぎに乗じて逃げること。
この人は「誰も殺さない」と思ってはくれているけど「でも必要なら殺す」でもあるのだ。
1000人殺すつもりだ。
殺せの命令を解除できない限り、信者達は人間に危険な存在だからだ。
あの人の感覚ではもう、信者達は人間ではない。
殺してもいい悪鬼でしかない。
ゾンビに噛まれてゾンビになってしまった人々だから、殺していいと思っている。
でもそれは詐欺師の念願を叶えることでもある。
信者全員が死ぬことを詐欺師は願っているからだ。
「殺したらダメだ」
俺はあの人に怒鳴る。
怒鳴らなければ聞こえない。
会場の信者達はわめき続けている。
詐欺師の命令通りに。
我先に、目立つ俺達を殺そうと向かってこようとし、だからこそ先のものたちを邪魔者のように排除しようとする姿は獲物を奪い合う悪鬼のようだった。
「ダメなの?もういいじゃないか」
あの人ががっかりしたように言う。
「何か考えて!!殺しちゃダメだ!!」
僕は怒鳴った。
何か考えろ!!
いつも悪巧みばかりしてるんだから!!
僕は山刀は持たない。
酷いケガをさせても・・・出来るだけ殺さないように。
「ねぇ・・・怒ってる?」
あの人が妙にオドオドした態度で言った。
何だよ、こんな時に。
何について言っているのはわかってた。
俺を誰かだと思って1000人の前で公開セックスしたり、
俺の前で誰かへの愛を表明したり、
僕以外の誰かを愛してるから逃がさないって言ったりしたよな!!
あんた酷いよな。
本当に俺に酷いよな。
いつだって酷いけど、今日は本当に酷いよな。
俺は泣きそうになった。
今はでもそれどころじゃない。
・・・あんた、悪いことした自覚はあるんだな!!
「めちゃくちゃ怒ってるよ!!」
俺は本気で怒鳴った。
あの人をここまで怒鳴りつけたのは初めてかもしれない。
びくん
あの人が震えた。
あの人は怒られた子供みたいな顔をした。
「でも・・・愛してる」
俺は付け加えずにいられなかった。
あの人の目が見開かれ、一瞬揺れた。
きらめいたものが見えた気がしたけれど、多分気のせいだろう。
信者達はステージの上にとうとう流れ込んだ。
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