244 / 275
The show must gone 21
あの人はさすがに信者達の手足をぶった斬るのは止めてくれた。
すごい・・・と思った。
流れるようにあの人の手足は動く。
掌底と言われる、手のひらの付け根を手首に直角に立てて、それで我先にと飛びかかってくる信者の顎を確実に打ち抜く。
一撃で信者達は動きを止める。
脳を揺らして、気絶させているのだ。
あの人のつま先や、脚の甲が顎や首をとらえ、脳を揺らす。
あの人は踊るかのように動き、たった一撃で信者達を止めていく。
身体がしなう。
美しく最短で動く。
呼吸一つ乱さない。
まるでダンスのよう。
信者達の脳を揺らし一瞬で気絶させる。
それ程激しい衝撃ではないが、確実に10数秒は意識を失う。
そして、信者達は気がついても、ぼんやりとしていて再び襲いかかってはこないのだ。
俺がやった脳への再起動をあの人は実にスマートにやっているのだ。
俺は・・・。
俺はスマートとはいかなかった。
肩や腕は何カ所も食いちぎられてるし、沢山のヤツがのしかかってくるし・・・。
俺も腕とか脚とか何人も折ってるし。
手加減しているつもりだけど、あの人と違って俺が「再起動」させた信者達はまだ誰も起きてこないから、死んでしまったんじゃないかと心配だし・・・
でもこれではダメだ。
あの人相手だから脳の機能が完全に停止出来る位殴れた。
でも人間相手では・・・一時的に停止してるだけだ。
詐欺師の洗脳が本当に抜けたかもわからないし。
「なんとかして!!」
俺はあの人に叫んだ。
そう、結局のところ・・・あの人に頼るしかないのだ。
あの人のズル賢い頭脳に。
「殺さず、助けろ・・・か。・・・コイツらにそんな価値があるかな」
あの人は呟いた気がする。
俺はのしかかってくる信者を掴んでなげる。
腕の肉を違う信者に噛みきられながら、頭を殴って気絶させる。
「・・・お前の願いだからな」
あの人はそう言った気がする。
あの人はふわりと飛んだ。
群がる信者達をすり抜け、踏み台にして、まるで体重がないかのように浮き上がった。
トン
軽い足音を立ててあの人がおりたったのは詐欺師の隣りで、詐欺師の肩を揺さぶり怒鳴っている情報屋の前だった。
ああそうだな。
詐欺師は殺されたって洗脳を解かないだろう。
なら、詐欺師に言うことをきかせるために痛めつけるなら・・・情報屋の方だな。
いや、考えることがエグい。
あの人らしい。
でも・・・情報屋が痛めつけられるのは嫌だけど・・・このままだと信者達は死ぬ。
殺すのは信者を止めるため殴っている俺かもしれないし(意外とあの人は手加減が上手いので大丈夫そう)、信者達同士の殴り合いからかもしれない。
とにかく早く洗脳を解く必要があった。
あの人が舌なめずりしながら情報屋に近づく。
そうだ・・・、あんた、情報屋を殺したかったんだっけ・・・。
さすがに今は殺さないけれど、酷い目には喜んで合わせるよな。
そらもう、大喜びで。
俺はもうどうすればいいのかわからない。
情報屋は、詐欺師に止めるように怒鳴っていたのだと思う。
聞こえないけど。
でも、今は恐怖に目を見開いた。
情報屋にも自分がどうなるかわかっていた。
キラキラした目であの人が情報屋に近づく。
皮をはぐのか、指を斬るのか、鼻を削ぐのか。
ふっと詐欺師が情報屋の前に立ちふさがったが、まぁ、無駄だろう。
詐欺師は普通の男程度の戦闘力しかない。
情報屋はあの人にいたぶられるだろう。
詐欺師が洗脳を解くま・・・、
ええ?!
俺は驚いた。
詐欺師は庇うのではなく、あの人を襲うため群がってくるステージ下の信者達の群れの中に情報屋を突き落としたのだ。
「うわぁぁああ」
情報屋の悲鳴が聞こえた。
俺やあの人のように直接狙われはしないが、踏まれ揉まれ殴られ、群れの底へと沈んで見えなくなった。
普通の人間なら死んでる。
ボキボキに体中の骨を折られて。
「・・・逃がしたな」
忌々しげにあの人が言ってた。
えっそうなの?
俺は信者を気絶させながら思う。
「うわぁぁああ」
情報屋は悲鳴だけ聞こえる。
ええ・・・これ逃がしてるの?
でも、あの人にいたぶられるよりは・・・まし、なのか。
確かに、信者を掻き分けて情報屋を引き出すのは大変そうだ。
ともだちにシェアしよう!