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The show must gone 22
「逃がしてやるのか・・・お前自身から。優しいな」
あの人はつかみかかってくる信者達を一撃で眠らせながら言う。
「うわぁぁ」
信者達に踏まれ、殴られたりしている情報屋の悲鳴がまた聞こえた。
優しい・・・のか。
ええ?
この人と詐欺師の基準では優しいのだろう。
俺の知る限り最悪のサディスト二人、性悪最悪の二人だからな。
「情報屋を手放しても、僕に自分が殺されても、信者達は殺す・・・か。わかるよ。コイツらの醜悪さには吐き気がする。楽しみ以上に駆逐したい」
あの人は賛同をしめした。
自分が救われるためには何だってするんだ。
言われるがままに。
あの人は吐き捨てる。
その間にも襲いかかる信者をのばしている。
「別にお前の能力がなくてもコイツらは神からの命令さえあれば喜んで誰だって殺すに決まってる」
あの人は忌々しそうに言った。
さあ、あの方が仰った。
コイツを殺そう。
あの方が言ったんだから。
殺す理由?
それもあの方が与えてくれる。
さあ、あの方が仰った。
コイツを嬲ろう。
コイツの痛み?
そんなの知らない。
あの方がそうしろって言ったんだから。
さあ、みんなで嬲ろう。
むしゃぶりつくそう。
誉めて下さい。
認めて下さい。
一人にしないで下さい。
仲間が欲しい。
同じ何かを信じるモノが。
一人は嫌。
誰か認めて。
助けて。
私を助けて下さい。
助けてくれるなら・・・何でもするから。
信者達の考えがふいに俺の中を駆け抜けた。
生々しい感情だった。、
詐欺師の能力の一つなのか。
一瞬胸が悪くなった。
正義感も信仰も全て全て。
払う犠牲の一つ一つ。
我が身を切り刻むことでさえ、誰かの苦しみでさえ。
全てがただ自分が救われたいエゴでしかなかった。
俺だって知らないわけじゃない。
あの人やスーツがカルトのやり口を教えてくれたし。
自分達のお金をカルトに捧げるのはまだ分かる。
それが本来は家族のために使うべきお金だとしても、そこに苦しむ家族がいたとしても。
教団に命じられるまま、高価な像や壺を売る。
苦しんでいる人達を見つけて寄り添うことは得意だ。
自分も苦しんできたから。
「これを買えば変わる」
そう囁く。
実際自分は助けれたと思っているから、その言葉の真実味がある。
財産を失い途方にくれた人間が後に残されたとしてもしったことではない。
救われなかったのはソイツが信じることが出来なかっただけだからだ。
教団に誉められ、満足を得る。
ああ、嬉しい。
認めて。
誉めて。
私を。
教団に言われるがまま、政治活動を行う。
言われるがままに集会に参加する。
何人集められるかを教団が政党に頼まれているからだ。
その政党の主義主張が教団の教えと一致しているかは関係ない。
ただ、教団に言われる候補者の選挙の手伝いをし、必要なら署名運動やデモをし、若者を取り込むために宗教色は出さないサークルを立ち上げる。
最近ではネット戦略も大切だ。
教団に命じられるまま中傷やデマもふりまく。
それが本当に正しいことなのか。
それについては考えなくてもいい。
そうしろと言われたのだから。
そうすれば褒めてもらえる。
教団につくしたなら救われる。
悩みなどない。
全て正しいことだけをしている。
私は正しく、認められている。
教団が命じたのならそれは正しい。
正しい世界のためだ。
正義だ。
正義なのだ。
世界を救っているのだ。
我々は一人である小さい何かであることをやめて。
我々は我々になって。
ちっぽけな私を脱ぎ捨てて。
おおきな我々となって。
世界を救っているのだ。
カルトは人間を「個人である私」から「集団である我々」に変えることで支配するんだ。
アリや蜂が巣全体のために機能するように。
ただアリや蜂はその集団全体のために動く。
それは一見トップにみえる女王だって同じことだ。
誰もが全体の為に生きている。
けれど、カルトと言う巣では全てのモノはトップのためだけに動いているだけだ。
トップの「個人である私」だけが全てを手にしているだけなのだ。
本当は「我々」などどこにもいないのだ。
あると思い込んでいるだけで。
一人もしくは少数の人間のむき出しの欲望があるだけなのだ。
自分をも他人をも捧げ続ける。
トップのために。
個を全体に溶かしてしまえば、一人であることの苦しみからは逃れられる。
苦しみさえ、全体のものであると思えば耐えられる。
意味のある苦しみなら、人間は耐えることが出来るからだ。
見ない。
何を捧げたのかは。
本当には見ない。
考えない。
自分が人に与えた苦しみ本当は何なのか。
子ども?
友人?
親?
兄弟?
親戚?
同僚?
見もしらないのに中傷やデマをふりまいたネットの向こうの誰か?。
自分がその人に与えた苦痛など見もしないで、「正義」だけを見つめておけばいい。
自分には何の責任もない。
指示に従っているのだから。
これは正義だ。
この人達は「自分」を手放したのだ。
そしてただ上に命じられるまま、誰かに苦しみを与え続けているのは確かなのだ。
「正義」の名のもとに。
あの人が嫌うのもわかる。
カルトに捧げられた詐欺師の憎悪は当然だろう。
でも。
でも。
それでも。
この人達を死なせてはいけないんだ。
死んでるんじゃないかと思ってしまう位なぐりながら言うのはあれなんだけど。
俺はちゃんとあの人とスーツから貰った資料読んだ。
信者全員が全員全て捧げたわけじゃない。
教祖が暴走した最高に狂った時代の教団の時でも、
子供を教祖捧げることに抵抗して、殺され埋められた母親もいた。
泣いて嫌がる子供の痛みに逃げることをやめたのだ。
教団から逃げようとした信者を助けて一緒に殺された人もいた。
教団の方向性がまちがっていると教祖に訴え殺されたた人もいた。
どんなに洗脳されていても・・・そこから気付くこともあるのだ。
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