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The show must gone 23
人間は弱い。
手放せない望みや、忘れられない想いはある。
それは単なる欲望などではないもっと痛切な願いだったりもする。
俺だって支配された。
あの人だって。
でも、そこから逃れた。
自分の痛みと向き合うことで。
今この信者達は教団の言うがまま、人の痛みを気にせず誰かを踏みにじり続けている。
実際には行動してはいない信者もいるだろう。
でも教団の為に誰かを踏みにじることを、彼らは止めようとはしないだろう。
理由をつけて見逃すだけだ。
この人達をそのままにしておくことは正義なのかと言われたなら俺は答えられない。
でも、この人達は変わるかもしれない。
支配を断ち切り、一人の人間に戻るかもしれない。
その可能性は常に存在している。
人間は変わる。
あの人は自分が化け物になってしまったからもう昔の恋人に会えないと言った。
そう、人間は酷い悪魔にも変わる。
あの人がそうなったように。
でも、違うことだってあり得たのだ。
人間を残虐になぶるあの人ではなく、おそらく、ワガママなのは絶対に変わらないはずだけど、始末屋ではなく普通の人間として生きていたあの人だってあったかもしれないはずなんだ。
人間は何にだってなり得る。
あの人だって今は一応正義の味方だ。
とりあえず。
この人達のその可能性に目をつぶり、この人達を殺してしまうのは「正義」じゃないんだ。
この人達をこのままにしておくことは確かに正義じゃない。
でも、この人達を殺してしまうことの方が絶対に「正義」じゃないんだ。
俺は。
俺は。
そう思ってる。
「情報屋を自分から逃がしてやって・・・せっかくお前を追いかけて来てくれたのに逃がしてやって優しいつもりか?」
あの人は信者を殴りつけながら云う。
「うわぁぁ~!」
信者達に踏みむけられている情報屋の声は響きつづけている。
これ、優しいの?
俺はちょっと疑問に思う。
「お前は間違っている。恋人を逃がすなんて間違っている。逃がしちゃいけないんだよ。たとえどんなに相手が嫌がって怖がって逃げ出したいと思ったとしても」
自信満々にあの人が言い切った。
ええ・・・。
何そのDV関白宣言。
まあ、この人間違いないなく暴力的で最悪の恋人だからな。
いや、分かってるからいいんだけど・・・。
「・・・その代わり恋人の望みは何だって叶えてやらなきゃいけないんだ。どんなことでもだ。そうしてやれるからこそ逃がさないでもいいんだ。好きにしていいんだ」
また言い切った。
何その恋愛観。
一度この人の恋人の定義を聞くべきだな。
俺は他人事のように思った。
「お前はダメだ。恋人より復讐を選んだ。お前は恋人と逃げて目立たぬ程度に人を殺して生きるべきだった」
あの人は言う。
なんかおかしいけど、まあいい。
「まあ、いずれ見つけ出して殺したけどな」
あの人は残酷に笑う。
群がる信者達があの人に気を失わされたり、ショックでぼんやりしている連中が邪魔であの人に襲いかかりにくくなっている。
あの人の手が銃に変わる。
いや、今、詐欺師を撃ったところで・・・。
洗脳は解けない・・・でも、あの人はそんなことわかっているはずだし・・・
でも、もうこのままでは・・・信者達は何人か死んでしまっているかもしれない。
俺やあの人が気絶させているだけでなく、パニックの中踏み潰されたり、殴り合いになったりもしているからだ。
「なんとかして!!」
俺は叫ぶ。
ただでさえできない手加減がもう出来なくなりそうだ。
詐欺師はずっと柔らかな笑顔を貼り付けていたけれど、銃をむけられ、それがスッと消えた。
ゆっくりと唇がつり上がった。
それは牙を向く獣の笑い顔だった。
目がギラリとした光を放つ。
隠そうとももうしない酷薄さ。
醜く冷酷な生き物がそこにいた。
これがこの男の本質なのだ。
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