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The show must gone 25

 「お前の【洗脳】はこれで終わりだよ」  あの人は指を引き抜くと同時に、腰を抱いていた詐欺師を床に投げ出しながら言った。  なんかこう、犯すだけ犯して、中で出したら放り出す男みたいだった。    いや、この人はそういうタイプではないんだけど。  めちゃくちゃねちっこいタイプなんですけど。  拷問なり、愛撫なり、とことん構うタイプなんだけど。  もういいっていっても止めてくれないタイプなんだけど  詐欺師の脳に傷があることはわかっていた。  それはスーツが持ってきた資料にもあった。  何の根拠もない手術を、教祖によって受けさせられ、頭蓋骨に穴を開けて宝石をはめ込まれていたことも。  情報屋から詐欺師が「嘘しかつけない」ことは聞いたし、俺も詐欺師に監禁されている間、詐欺師か言葉を使わないで情報屋とコミュニケーションをとっているのは見てた。    それが脳の損傷によるものではないかと言うことは情報屋も推測していた。  あの人か同じ結論に至ったのも理解できる。  それにあの人は言っていた。  【洗脳】は捕食者としての能力ではないのではないかと。  おそらく【心やネットを渡りあるく能力】こそが捕食者としての能力で【洗脳】は詐欺師が本来持っていた能力ではないかと。  そして、あの人も情報屋も、何故詐欺師の頭の傷跡が治らないのかが分からないと不思議がっていた。  「捕食者や従属者になれば身体は不死身になり、壊れていた身体は治る。僕はそう思ってた。実際僕の古傷もなおったし、ガキの壊した膝は治って好きなだけ動いているし」   あの人は針金を弄ぶ。  詐欺師はもう頭に開けられた穴が塞がっている。  今度は傷跡も残さず治っていく。  「考えた可能性は2つ。一つは異物が入っていると完全には治らない。・・・しかし、これは僕が傭兵のヤツに身体中に破片を突き立てられて違うと分かった。治りは遅いが治らないわけじゃない」  あの人は詐欺師の(脳の)中に突っ込んで濡れた指をなめながら言った。  詐欺師のそれ(脳の中の液体)を味わうように。  赤い舌が淫らに動いた。  「もう一つは僕達、捕食者の身体は一番人を殺しやすい状態に身体を保とうとしているのではないかという可能性だ。不死身なのも、怪我が治るのもそのために都合がいいからだ。・・・つまり、その方が都合がいいのなら、あえて治さないのではないか?傷ついた結果、手にした能力があるのなら、捕食者としての身体は脳に入った針金を、脳の損傷をそのままにするんじゃないか?ってね」  あの人は詐欺師の中に入っていた針金もしゃぶった。    赤い舌がそれを舐めあげる姿に俺の喉が鳴ってしまう。   反応してしまう。  「お前の【嘘】は本物だ。お前は【嘘】しかつかない。【嘘】ってのは何だ?本当ではないことだ。だが、本当でないことなんてなかなかない。とんな嘘でも少しの真実や無理やりな理屈はつくものだ。・・・お前の【嘘】だけは本当の【嘘】だ。お前は【決して叶わない願い】を使うからだ。お前の【嘘】は【嘘】だからこそ力を持った。誰もが諦めている望みだから、ありえないことだからこそ」  あの人は床から半分身体を起こした詐欺師の頭に向かって蹴りを放った。    かくん    詐欺師の首が有り得ない方角に曲がる。  これでは詐欺師は死なないけれど。  「お前の【嘘】はもう消えた。僕が消し去った」  あの人は針金を放り投げた。  「僕の勝ちだ」  あの人は宣言した。  艶やかな微笑を浮かべながら。  あの人はいつだって。  勝たないゲームはしないのだ。  「・・ちょっと待ってろ、お前とはゆっくり話やら色々楽しみたいからね」  あの人は詐欺師の頭を踏みつけながら言った。  後でゆっくりと拷問を楽しむつもりなのは分かった。  拷問部屋で。  苦痛こそがあの人の糧だから。  その間も会場の動ける信者達は、ドアを叩き逃げようとさけんでいた。  「信者達を保護する。ドアを開けていいか」   スーツの声がした。    病院につれていく必要があるものは大勢いた。  死んできいるかもしれない者も。  「まだだ!!」  あの人は言った。  目がギラギラと光っていた。  「まだショーは終わってないんだよ!!」  あの人は残酷な笑顔で言った。  まだ何があるの?  何が?  詐欺師の洗脳は解いた。  詐欺師も確保した。  他になにが?  俺にはわからなかった。  「僕はコイツらを救ってやらなければならないんだよ」  あの人の言葉の意味もわからなかった。  あの人はステージの中央にむかった。  演壇に向かう。  そして、演壇の隠し扉に手をかけた。  中に隠れていた代表の女の人の髪をつかんで引きずりだした。  「見ろ!!」  あの人は叫んだ。  通る声だった。  まるで、違うチャンネルから響いてくるような声だった。  詐欺師の青い言葉のように信者達は動きを止めた。  それは多分、その声にのせられていたのが切れるような殺意だったからだろう。  ドア前で押しあっていた信者達がステージを見つめた。  ステージの後ろの巨大なスクリーンに髪を掴かまれ顔をあげさせられた女の人と、その女の人に鬼のような笑顔を向けるあの人が映る。  信者達は呆けたようにそれを見つめた。  何をする気だ?

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