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もう1つのエンディング 1

 僕は実に満足していた。  我ながら素晴らしい出し物になった。  女の頑張りがなければここまでのショーになったかどうかわからない。  「信者達を保護しろ。ああ、保護だけでいい。拘束も監視もいらない。早く病院へはこんでやれ」    僕は犬に言った。  「分かった」  犬は答えた。    すぐに飛んでくるだろう。  情報屋を迎えに。  まずまずの結果だった。  それほど死人は出ていないはずだ。  詐欺師が殺した奴らを入れても10人ちょいじゃないか?  身体に障害を負ったり後日亡くなるヤツもいるかもしれないし、二度と目を覚まさないヤツもいるかもしれないが。  少なくとも最小限で済んだ。  悪くない。    僕が最初に予定していた死人の三分の一くらいですみそうだ。  僕は自分に拍手をおくった。     「何で、何で!!」  ガキが僕に向かって刺すような声で叫ぶ。  首がなくなった女の身体の前でがっくりと膝をついている。  ガキはこの女を助けていたしね。  隠し部屋に隠したりして。  自分の努力を無駄にされたみたいで気分が良くないのかもしれないな。  それに関しては悪いことをした。  「殺すなんて!!」  ガキの責めるような声に僕はイラついた。  何でだ。  僕はやってのけた。  見事にやってのけた。    今回出し抜かれたりはしたが、ちゃんとやってのけた。    誉められこそすれ怒られる理由は少なくとも、「正義の味方」としてはないぞ。  まあ、今回は少しばかりガキに謝らなけばならないことは確かにあるが、この女のことでガキに怒られることは何一つないぞ。  僕はムッとする。  「ガキ・・・僕は正義の味方だぞ?」  僕はガキに言う。    「だから何でこの人を殺すんだ?一人でも殺さないようにするって・・・」  ガキがわけのわからないことを言う。  「それは救う価値もない信者の話だろ?この女は実に見事な悪党だぞ?正義の味方が悪党を殺して何がなんでも悪いんだ?」  僕は当たり前のことをガキに言ってきかせる。  「あの女は本物の悪党だった。父親とは違って狂ってはいなかったが、信者達は女には道具でしかなかった。詐欺師の洗脳を解いたところで、信者達は教団から離れることなく女に操られ続けていただろう。まぁ、確かにお前にしたら大した罪じゃないんだろう。全てを捧げ続ける信者達も自業自得なんだろ、親が信者であるために狂った家庭の中で生き続ける子供達も。教団の命令で信者達に食い物にされる人々も。僕だって別にそんなものはどうでもいい・・・本当のところはな。でも、ならなぜここで詐欺師の洗脳を解かなくても良かったじゃないかって話になる。一生じわじわ喰われるか、今死ぬかだけの違いじゃないか」  僕はガキに説明するのも面倒になってくる。  僕は週に一人悪党を殺している。    それを今回は拷問するのを止めて、公開で殺しただけだ。   何の文句があるんだ。     むしろ、僕にしてみれば優しい位だ。  ガキが何も言えなくなる。  困ったように下を向く。  「あの女がこの誕生祭を強引に行わなければ、今日死人が出ることもなかったんだぞ?」  僕はガキにイラつく。  僕は女に忠告した。    信者が死ぬ、と。  女は構わないと言った。  そう言った時、女は僕の獲物になった。  お気に入りの・・・おもちゃに。  女は信者を殺しても、権力を握りたかったのだ。   十分・・・僕が殺す悪党として相応しい。  実に僕好みの・・・悪党だ。  「僕はどうせ悪党を殺すついでで、信者達の本当の意味での洗脳も解いてやっただけだ。サービスだよ。アイツらを救ってやったんだ。アイツらの信じる嘘からね」   僕はため息をついた。  ガキはたまに本当に物わかりが悪い。    教団は超常の力を謳った。  修行により、人は人を超えるのだと。   彼らはその力にひれ伏した。    巨大な力に仕えることで、自分も巨大になれると信じて。  卑小な人間ではなくなりたいと望んだ。  そのために、巨大な力の奴隷となり文字通りケツの穴まで舐めた。  望まれさえすれば。  何でもするのだ。     それこそ卑小な人間のすることであるのに。    人間を超えるものと信じたから、信者達は女や詐欺師や教祖にひれ伏した。   何のことはない。  僕のいた裏の世界でも、表の世界の綺麗ぶった連中でもこんなヤツはいくらでもいる。  そいつらが集まっただけだ。  僕に言わせれば卑小な人間を嫌う連中が、一番卑小な連中と同じことをしていただけでおかしくて笑ってしまう。    巨大な力。    そう神のような。  信じる全て。  それを目の前で壊してやったのだ。  彼らの神を呆気なく、この手で殺してやったのだ。    女の髪を掴んで、普通の人間のように怯える姿を見せつけて、他愛もなく簡単に殺すことで教えてやったのだ。  首をはねられ、血をぶちまけ、惨めに首だけは床から自分から遠ざかる信者達を見つめるような素敵な死体に変えてやって。  信者達は知ったのだ。  自分達がひれ伏して、その足の指まで舐めていたモノが自分達と変わらない、ちっぽけなか弱い生き物であることを。  自分達と同じ、血と肉と糞と尿の詰まった皮の袋であることを。  まあ、詐欺師はこの刀では殺せないから首を切り離して、隠し部屋に蹴り込むことでごまかしたけれども、女が死んだ後ならそのショックで十分信じたはずだ。  まあ、後で殺すし、ちょっとしたヤラセだがまぁこれくらいはいいだろう。  何ならこの後する拷問を中継してやってもいいんだが。  僕はいいけど、犬が煩いだろうし。  神は死んだ。  僕が殺した。  惨めに神は死に絶えた。  僕がしたのは神殺しだった。      

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