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もう1つのエンディング 2

 「僕はね、嘘を暴いてコイツらを救ってやったんだよ。心から信じていたものが嘘だったって教えてやって。信じたものがなくなったコイツらがその後に何を抱えることになろうと、それは僕の知ったことじゃない。でも、正義の味方は閉じ込められている人間どもを助けだしてやるものだろ?出してやったんだよ、嘘の外に」  僕はガキに言った。  これでも。   一応、正義の味方については僕なりに勉強している。  なるとは言ってみたものの、良くわからないからだ。  ガキの思う正義の味方に近づける必要があった。  くだらない映画も観た。   ガキと一緒に。   ヘドが出るほどくだらなかった。  だが理解はした。  悪者は派手にぶち殺し、人間どもを救い出すのが正義の味方だ。  僕は両方ちゃんとしてのけた。    僕は間違ってない。     なのに僕を見るガキの目に痛みがあるのが気に入らない。     僕は膨れた。  ガキから目を逸らす。  見たくなかった。  僕を否定するガキを。  面白くない。  本来ならこの場で犯してやるんだが。    今日はさすがに・・・さすがの僕も気がひけた。  僕にだって罪悪感はあるんだ。  犬の部下や、救急隊員がステージの上の信者達を運び出していく。  僕は足元の扉を楽しく眺める。  この中に詐欺師がいて、たぶんもう再生してる。    まぁいい。  僕はこのあとのことを考えて興奮する。  当分楽しめるおもちゃが手には入ったのだ。  すぐには殺さない。  死なない身体って最高だ。  苦痛を感じないわけではないしね。  性器改造とかしてみたかったんだよね、僕。   縦に切り裂いてみたり。      「コイツを縛って僕のお楽しみ部屋に繋いでおけ。洗脳はもうむりだが、ネットには入り込める。パソコン、スマホはコイツの近くにおくな」  僕は犬の部下に命令した。  犬は多分、今頃情報屋を会場の中で探し回っているはずだ。    まあ、これで全てがうまくいった。    情報屋はいずれガキにバレない方法で殺す。  ガキに手を出したから仕方ない。    大丈夫、僕は優しい。  ちゃんと犬も一緒に送ってやる。    上手い方法をかんがえなければいけないね。  とにかく、僕は満足した。  僕はいつだってちゃんと仕事をするのだ。  殺しであれ、正義の味方であれ。  そうだ、詐欺師で楽しむ前にしなきゃいけないことが・・・。  僕は・・・ちゃんと・・・ちゃんと・・・。  「ガキ・・・あの・・・僕、ちゃんとね・・・言っておこうと思って・・・」  僕は気まずくなりながら、言葉を選びながらガキの方を振り返った。  ガキには言いたいことがあった。    上手く僕は言えるだろうか。    僕は言葉を止めた。    ガキは首を失った女の身体を優しく抱き上げ、犬の部下達の持ってきた死体袋に納めていた。  死体の保全も何もない。  この事件、後で犬達がもっともらしくでっちあげるのだから。  どんな説明をでっち上げるのか楽しみだ。  犬は意外と想像力がある。  犬が頭を抱えて、泣きながら考えるでっち上げを実は僕は楽しみにしてるのだが・・・。    今はそんなことはどうでもよかった。    ガキは優しく女の手を組み合わせてやっていた。  服の乱れを整えてやり、ガキが袋を閉じた。   僕はガキの顔から目をそらせなかった。  僕はガキのそばに走っていく。  隠し扉を開けて詐欺師を二人がかりで犬の部下達が拘束していたがどうでもよかった。  どうでもいい。    僕はガキの腕を掴んでひきよせた。  少し高い場所にあるその目を、覗き込む。  「何で泣く」  僕はどうしてこんなに胸が痛いのだろう。  「泣いてないよ」    ガキは笑う。    確かに涙は出ていなかった。  その目は濡れてさえいない。    でも、その目は知ってる。    「涙も流さずに泣くな・・・僕のせいか?僕のせいか?」  分かりきっていることに僕は動揺する。  「笑いながら・・・泣くな!!」  僕は怒鳴り狼狽し、ただガキを揺さぶる。  血まみれの僕の手がガキを汚していく。    「僕の?僕の?」  僕はどうしたらいいのかわからない。  ガキは笑ってて、なのに泣いてる。  その目の奥にある痛みに僕は耐えられない。  「あんたのせいじゃない。あんたは何も・・・何も・・・悪くない」  ガキは僕の目を見て言った。  その目の透明さと、強さは僕には耐え難い。  ガキの痛みもそこにあったから。  「あんたは何も悪くないんだ・・・」  ガキは僕を抱きしめた。  その優しい抱擁に胸を突かれた。  「悪いのはあんたじゃない・・・」  ガキはそう言って僕の肩に顔をうずめて、本当にすこしだけ泣いた。    どうすればいいのか分からなかった。  頭が真っ白になった。  こんな風に泣くガキを見たことがなかったから。  そんな僕をガキはどこまでも優しく抱きしめていた。  血まみれの僕を、抱きしめてガキは泣いていた。     何故かガキは自分が悲しいからじゃなく、僕のために泣いてるのが、何故かわかった。    僕のせいで泣いてる。  でもそれは、僕を責めてたり、僕のすることに苦しんで泣いてるのではなくて・・・。  ガキは僕を悲しんでいた。  僕のために悲しんでいた。  だから、余計に僕はどうすればいいのかがわからなかった。  でもそれはそんなに長い時間ではなかった。  ステージの僕達の前に姿を現したのは・・・情報屋だった。  

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