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もう1つのエンディング 4
「お取り込み中、いいかな?」
オレは抱き合う少年と捕食者に声をかけた。
酷い目にあった。
何十人に踏まれ、身体の上に何人もが倒れこみ、押し潰されるかと思った。
身体中の骨を折られ、内臓も破裂していたはずだ。
バキバキと骨の折れる音が身体に響き、折れた骨が内臓に刺さる感触とか、内臓が潰れる苦痛とか。
それでも死なないからこそ続く苦痛とか。
二度と味わいたくはない。
オレはステージの下で潰れていた。
助かる可能性のあるものから運び出すためトリアージをしていた救急隊員がオレを「助からない」と判断してそのまま放置した位、最悪の状態になっていた。
心臓も止まっていたかもしれない。
だけどオレたちは回復する。死なない。
回復と同時に、オレはステージにやってきたのだ。
オレにはしなければならないことがあった。
オレの声に少年が振り返る。
少年に抱きしめられていた捕食者もこちらをみた。
相変わらず、美しい男だ。
最悪であることも変わらない。
「あれ?スーツは?」
無邪気に少年が言った。
アイツがオレをさがしているのは知っている。
狂ったようにオレを呼んでる声なら聞いた。
倒れた信者達を見てまわっているはずだ。
でも・・・会えない。
会わない。
会いたくない。
「取引がしたい」
オレは捕食者に言った。
オレは二人の男に拘束服を着せられている嘘つきに目をやった。
嘘つきは俺を見ようとはしなかった。
大人しく拘束されている。
「信者全員を殺す」と言うお前の願いは果たせなかったが、「教団を潰す」という目的は捕食者が叶えてくれた。
これで・・・少しは満足か?
心を失ったように茫然としている信者達が明日から普通に生きていけるとは思えない。
復讐にはなったか?
「取引だと?」
少年の肩に頭を預けながら捕食者は言った。
ネコが身体をすりよせるように、男は少年に頭を擦り付ける。
猫?
そんな可愛いものではない。
彪だな。
冷酷な微笑が浮かんでいた。
恐ろしい男なのだ。
恐ろしい・・・。
オレはそれを忘れたりはしなかった。
「取引ってのは渡せるものがあって出来ることだぞ」
捕食者はオレを馬鹿にしたように笑った。
ああ、そうだ。
オレには何もない。
何も。
この男と駆け引き出来るだけのものは何も。
捕食者は少年の喉に何度もキスをする。
少年は困ったような顔をするが、止めない。
あれだけド派手な公開セックスした後じゃな・・・。こんなもん、てか、多分、少年今は公開セックスのこと忘れてる。
忘れさせておいてやろう。
彼の性格上、後でのたうちまわるのだ。
こんだけ捕食者に仕込まれているわりには、まだまだ純情可憐なのだ。
少年は。
捕食者は少年から離れた。
捕食者は嘘つきの側へ行く。
オレを信者の群れの中に落とした張本人は頑なにオレの方をみようとしなかった。
真っ白な拘束服、美しい顔は自らの血に汚れていた。
拘束服のまま、両脇を男達に抱えられた嘘つきの前に捕食者は立った。
舌なめずりしながら捕食者は嘘つきをつま先から頭まで、じっくりと眺めていた。
それにオレはゾッとした。
コイツが拷問マニアなのをオレは知っていたから。
捕食者は振り返ってオレを見て笑った。
そして言った。
「それに僕の仕事は捕食者を狩ることだ。コイツを野放しなどもうしない。それにこれからコイツで楽しく遊ぶんだ。・・・何日かな、もしかしたらひと月は楽しめるかもな。コイツで遊んでる間は他の殺しをしなくていいからガキも喜ぶし。コイツが1日でも僕を長く楽しませてくれたらいいと思うよ」
捕食者は嘘つきに触ろうとはしなかった。
それが我慢していることなのはわかった。
触ると我慢できなくなるからだ。
「待て」をしているのだ。
飼い主・・・少年の前だから。
言っていることも本気だと分かった。
殺人や拷問を嫌う少年のために、嘘つき一人で長く楽しみたい・・・、
何故なら嘘つきは不死身だから・・・、
それを少年への思いやりとして心から言っているのがわかってゾッとした。
ド変態の悪魔め。
いや、それを言うなら人間の心から潰しにくる嘘つきも最低具合では全く負けていないけどな。
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