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もう1つのエンディング7

 「自刎って何?」  漢文なんて読めそうもない少年が尋ねてる間に、アイツが少しでも動けるようになる前にオレはそれをやってのけることにした。  その前にオレはもう一度嘘をついた。  嘘つきに向かって言った。    「愛してるよ」  それは嘘だった。  でもそれは、オレの強い願いだった。  嘘つきの目に宿る強い光。  お前はもうオレから目をそらせない。  オレはお前のものだ。  オレはお前を愛したかった。  お前だけを愛したかった。  お前は捕食者と変わらない最低の殺人鬼だったし、本当に甘えたで悪いこと以外はやる気の一つも見せない最低のヒモ野郎だったし、ド変態だったけど。  お前は何故かオレをオレだけを求めた。    オレを求めて、だから求められたからくれてやるって言ったのに・・・。  お前はオレを手放した。  オレが愛する男の元へオレを返した。  お前・・・本当にオレが好きなんだな。  オレだけが。  オレを手放せる位にオレをお前は愛してる。  オレ。   オレ。   嬉しいんだよ。  オレ愛されたかったんだな。    でも、でも。  「愛してるよ」  オレは心の底から嘘をつく。  少年。  お前に聞きたかったな。  そうあって欲しいと心の底から思いながらつく嘘は、本当に嘘なのか?  なぁ、違うんじゃないか?  ソイツのために命までやれたなら、もうそんなの嘘だとしてもどうでもいいんじゃないか?  オレは山刀を両手で支え、顎の下に当てた。  自刎、  自ら自分の首をはねることだ。  昔の中国の武人達はそうして見事に死んだ者もいた、と記されている。  実際は首をはねるのではなく刺しただけかもしれない。  自分で自分の首をはねることなど不可能にちかい。    あくまでも物語を盛り上げるためだけの演出かもしれないとオレは思っていた。  捕食者はあれでかなり教養がある。  知ってると思ったらやはり食いついてきた。  捕食者も思っている。  殺人を行ってきた者だからこそ、リアルに思っている。  自刎など無理だと。  だから・・・やってのけなければならない。  もちろんオレには武道の経験などない。  オレは首を切り落とせなければ死ねない。  切り落とすのに失敗したら死ねない。  死なないと、嘘つきは拷問される。  オレはどうやってでもやりとげなければならなかった。  正直、何故そこまで嘘つきじゃないといけないのかわからないんだ。  同情と言うにはあまりに強い。  それにオレは同情なんかで一緒に死んでやろうというおめでたい人間ではないつもりだ。  それとも、そんなにも欲しがっていたのか?  オレの方が。   オレだけを愛してくれる誰かを。  そうかもな。  そうかもな。    まだガキだったオレが、大きなアイツの背中に負ぶわれて帰った日。  何をしでかしたのかなんかもう覚えていない。  オレは迎えに来てくれたアイツの背中で泣きそうになるのをこらえていた。  嬉しかった。     アイツの背中を独占出来ることが。  思った。   いけないことだと思いながら。    アイツはオレだけのものじゃないことを知っているのに。  あの子や、アイツの家族や、アイツの友達や・・・沢山の人たちがいるのに。  これがずっとオレだけの背中だといいのにって。  それが間違っていることはわかっていた。  オレだって・・・アイツ一人だけと言うわけにはいかないのだ。  オレだってろくでもない母親がいたし、オレを家族同然に扱ってくれるアイツの家族や、あの子がいた。    あの日の想いがもう恋だったのかは分からない。  オレは人間は決して誰か一人だけのものにはならないのだと、オレは知っていた。  でも、この世界でこの嘘つきだけは、オレだけだ。   オレ以外欲しない。  そのくせ、オレをオレの愛する者達に返そうとした。  オレが嘘つきだけを選んだことだけで満足して。    それは最悪の殺人鬼の、実に正しい愛の形だった。  誰にも愛されない闇の生き物。  貪られる闇で生まれて、その闇に帰っていくだけの。  コイツが行く先が闇だとしても・・・何か一つ位持って行かせたかった。  それがオレの嘘だとしても。    でも、自分の命と引き換えにそうしようとしてるなら、それはもう嘘じゃない。  愛に限りなく等しい嘘だ。  そしてこの嘘は、嘘つきのためだけにある嘘じゃないことが罪深い。  「愛してるよ」  オレは嘘つきにまた言った。  それはアイツの耳にも届くはずだ。   オレは嘘つきを愛している。  お前じゃない。  だからお前にはなんの責任もない。  オレが死ぬことにお前は何の責任もないんだよ、  オレはアイツにそう伝えたかったのだ。  アイツが目が見えないし、激痛だろうに立ち上がった。  オレを捕まえるためだ。    人間は目に異物を入れられたら動けなくなる。  本能なのだ。    なのに本能を無視してまでオレを捕まえようとする。  ああ、欲張りだな、お前。  オレを諦めようとはしないんだな。  だが見えないだろ。    少年が「自刎」の意味をやっと理解してこちらに来ようとした。    少年は速い。  だから、もう跳ぶしかない。  オレは首の下に山刀を両手で押し当てて、ステージから飛んだ。  体重と飛び下りることで発生する力を利用して、この首を切断するために。    オレはやりとげなければならない。  自ら武将が首を切り落とすのは物語のクライマックスだぜ?  カメラが回ってないのが残念だった。  さあ、ご覧じろ!!  見事この首飛ばしてみせます。  オレはステージから飛んだ。    

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