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もう1つのエンディング 8

 止めようとした俺の腕をあの人が掴んだ。  醒めた目だった。  「大丈夫だ。あれでは首は落ちない。【自刎】なんて普通の人間に出来るもんじゃない。達人級のヤツでよっぽど頭がおかしいヤツなら出来るかもしれないけどね。バカの気が済むまでやらしてやれ。その方が諦めもつく」  あの人はバカにしたように言った。  「でも」  オレは言った。    「無理だ」  あの人は断定した。  その確かさに俺は止まった。  確かに、情報屋は諦めなければならない。   俺にも詐欺師の存在は許されないのはわかる。  この男はあまりにも危険だ。  その能力を失ってもなお。  この男ならやろうと思えば、能力がなくても同じことをやれるのだ。  俺も拷問にも賛成できないけれど、情報屋は諦めなければならない。  拷問がどうとかじゃなくて・・・詐欺師を諦めなければならない。  生きていくために。  詐欺師を「愛している」と言う嘘を捨てて。     何故嘘を?  あんたはスーツを愛してるのに。  「出来っこないから、それを教えてやれ。あの高さじゃ、あれじゃ首は飛ばない」  あの人は真面目に言った。  俺は見守ることにした。  目の見えないスーツが情報屋の名前を絶叫し、探し求めて無闇やたらに宙を掻く。  情報屋は顎の下に山刀を両手で抱えるようにして押し当てて、ステージから飛び下りた。  体重と高さを使って首を切り落とすつもりなのだ。    だが、あの人は無理だと言う。  高さが足りないと。  俺達、従属者は完全に首を切り落とさない限り死なない。  皮一枚繋がっていても、再生する。    実際俺も首を切り落とされかけても再生している。    情報屋は確かに上手に飛び下りた。  見事に山刀から先に身体はステージ下に落ち、鮮血がほとばしった。  山刀は確かに骨まで切断することには成功していた。  だが、首を切断するには至ってなかった。  「ね、簡単じゃないでしょ?」  あの人が笑顔で言った。  俺はホッとした。  狂ったように叫ぶスーツに呼びかける。  「大丈夫だ、スーツ、情報屋は再生する!!」  俺はホッとした。  これで情報屋が詐欺師を諦めてくれたら・・・あの人の言いぐさではないけど、スーツとくっついてくれたら・・・。  それで全部上手く行くんじゃないかな?  あの子とスーツのあまりにも不適切な関係も・・・止められるのかな。  互いに思い合っているのに、スーツはあの子を苛むだけなのだ。  俺はそれを願った。  だが、俺は次の瞬間目を疑った。    首を半分以上斬られた情報屋が起き上がったのだ。  まるでフードのように首は背後に垂れ下がっていた。   わずかな肉と皮膚だけで、背中にぶら下がった首には何の表情もなかった。  「・・・首を切り落とされても動いた例があると聞いたことはあったが・・・伝説の類だと」   あの人は呟いた。     俺もこの人から聞いた。  昔、一人の死刑囚が懇願したのだと。  その死刑囚は盗賊団の首領だった。  死刑台に横一列ひ並べられ、最初に首を斬られるその時に。  「首を斬られた瞬間、走りますから、走りきったところまでの部下の命はお助け下さい」  死刑に立ち会っていた領主はそんなことは無理だろうと、笑ってそれを認めた。    首が切り落とされた。  首領の首を失った身体はその瞬間走った。  見事部下全員の前を走りきり、首領の身体は倒れた。  そんな話だった。  捕食者には首を失ってでも動けるものがいるという話のついでであの人が話してくれたんだ。  でもそんなのは・・・いわゆる伝説で・・・。  俺が首を斬られた時も、繋がるまでは何の意識もなかったのに。  首を斬られても動けるものがいるのは捕食者だ。  従属者は不死身なだけの人間だ。  でも今、首を背中にぶら下げて、今情報屋は立ち上がった。  その手には刀が握られている。    ・・・まだヤるつもりなのだ、俺は悟った。  俺が走るのと、情報屋が勢いよく自分自身に刀を振り落とすのは同時だった。  「   !!」  スーツの声が情報屋の名前を叫ぶ。  情報屋の首を山刀は見事に飛ばした。    僅かな肉と皮で繋がっていたから・・・情報屋の力でもたりてしまった・・・。  情報屋の首は俺の目にはゆっくりと床に落ちた気がした。  落ちる瞬間、情報屋の目が俺を見た気がした。  情報屋は俺に問うていた。  「お前はどうするんだ?」と。  首は床に転がり、身体はその手から山刀を離し、ゆっくりと崩れ落ちた。  山刀が床ではねた。

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