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嘘の境界 1

 俺はシャワーを浴びていた。  スーツの部下達が会場ちかくのホテルを手配してくれていたのでそこでシャワーと着替えをすることになった。  血まみれだしね。  そして俺は、自分の尻から垂れてくるモノに・・・自分が何をしたのかってか、されたのかを思い出してしまった。  大公開セックスだ。    ・・・少なくとも1000人近い人々が見ている。  ネット中継って言ってたよな・・・まさか一般に公開はしてないよな。  俺は風呂の壁でガンガン血が出るまで頭を叩きつけた。  もちろん、そんなことで記憶は消えない。     消えてくれないのだ。  過去を修正できないなら、せめて記憶を消して貰えないだろうか。  「いつまで入ってる!!」  あの人の苛々した声がした。  珍しい。  いつもならダメだって言ってるのに勝手に入ってきて、風呂場で好き放題するくせに。  そういうことを言うなら、いつもは捕食者を殺した後は、どこかに部屋にを用意させて、  部屋に入ったらシャワーどころかまず突っ込まれるか、喉に押し込まれるのに。    あの人はもう一つ部屋を用意させていて、そこでシャワーを浴びると言って出て行ったのだ。  シャワーが終わって戻ってきたみたいだ。  あの人は今日は変だな。    「もう出るよ!!」  俺は大声で言う。  殺した後のあの人は、セックスにいつも以上に飢えている。  俺は貪られるのだろう。  恐怖なのか、期待なのかわからない何かが俺の指を震えさせる。  貫かれ、支配され、揺すぶられる。  それは、怖くて、気持ちよくて、辛くて、愛しい。  あの人に抱かれるのはいつ落ちるかわからないジェットコースターにのるみたいだ。  スーツはまだ現場にいる。  仕事をしている。  こんな時でも、だ。  目が見えないまま叫び続けていたスーツは部下に情報屋の死を知らされた。  その途端スーツは憑き物がおちたみたいに冷静になった。  スーツは部下からもらったペットボトルの水で目を洗った後、その目で現場を確認した。  切り落とされた情報屋の首は俺の腕の中で、無表情にステージを見つめていた。  その視線の先であの人が詐欺師を消滅させていた。  スーツは首を俺の腕からすくい上げた。  「・・・大馬鹿野郎・・・」  スーツはそうとだけ言った。  強くその首を抱きしめた。  その時は震えていたと思う。     だがすぐに冷静になった。  そして、首と身体をどこかへ運ぶように指示すると、そのまま働き続けたのだ。    まるで何もなかったかのように。    そして、多分今も働いている。  いつものように、あの人がしでかしたことの後始末をしているはずだ。  公開セックスもなんとかしてくれないかな。  見た全ての人間の記憶から消してくれないかな。  これは俺の切なる願いでもある。    スーツ、仕事・・・した方がいいのかも。  俺にもまだ実感がない。    あの魅力的な人が死んだとは思えない。    その切り離された頭部をだきしめたのに。    どこかで冗談を言いながら、呑気な様子で、それでも最悪の事態や最悪の相手に頭をフル回転させて切り抜けているような気がする。  どんな状況でも諦めないで。  スーツの元に帰るために。  どんなことでも平然と言ってのけ、その身体を使ってでも目的を達してみせて。    「さすがに今回はヤバかった」  とか底抜けの笑顔で言うんだ。  俺に際どい冗談を言ったりするんだ。     俺は目を閉じる。   考えるな。  考えるな。  今はまだ考えるな。  俺は今からあの人を受け止めなければならない。    殺した後のあの人は普段とは比べものにならない。  セックスと言うにはあまりにも壮絶なんだ。  苦痛と快楽と、あの人の残酷さを全て受け止めなきゃいけない。  「まだか!!」   あの人が怒鳴る。  ホント・・・短気だよね。  俺はため息をついた。  「今出る!!」  俺は言った。  そして気持ちを決めて、ドアを開けた

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