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嘘の境界 3

 俺は言葉を失った。  何か幻聴が聞こえたらしい。  色々あったからあり得る。    あり得る。  身体は回復しても、心はすり減る。  捕食者も従属者も寝るのはそのためだ。  後でゆっくり寝よう。  俺はぼーっとあの人が俺を貪るのを待っていた。  なんであの人か赤面しているのもわからなかった  なんで下むいてこの人は、身体を強ばらせてんだ?  そのまま数分経過した。  「・・・!!」  あの人がきっと唇を噛み締めて俺を見上げてる。  怒ってる?   なんで?  なんで?  「嫌なのか!!」  あの人が震えながら言った。  怒ってるんじゃない?  何これ?  何?  「何が?」  俺は混乱したまま尋ねた。  「僕を抱きたくないのか!!」  ヤケクソのようにあの人は叫んだ。  幻聴ではない。  ようやく理解した。  ええ?  ええ?   ええええええ!!!?  俺は動揺した。  しまくった。  こんなの俺の妄想の中にもないぞ。  ちゃんと妄想の中でも俺はあの人にお願いしまくってさせてもらってんだ。  こんなの想定外・・・。  あの人の瞳に必死さが見えた。  すがりつくようなその目に俺は痛みを感じた。  そうか。  そういうことか。   「無理しなくていいよ」  俺はあの人を抱き寄せた。  あの人は俺の腕の中で身体を固くしていた。  ものすごい緊張しているのがわかった。  「・・・あんたが俺に償う必要なんてないんだ。無理なんかしないでいい」  俺のやせ我慢だ。  だけど、ここでやせ我慢出来ないでどうする。    この人に身体を差し出させるような真似なんかさせられるか。  誰よりも高いプライドを捨てさせることなんか出来るか。  この人はワガママな女王様でいい。  抱きしめたあの人はまた身体を強ばらせた。  慣れてないのだ。  こういう風に抱きしめられることには。  そんなあんたが、「抱いてもいい」なんて言うわけないのは分かってる。  あんたを抱くよ?  いつだって抱きたい。  でもこういう風に償いの形なんかじゃなくて・・・。  俺はいつも言ってるだろ。     あんたの嫌がることはしたくない。  あんたが、「まあいい」と思ってくれた時でいい。  で、慣れたら・・・いずれは俺を欲しがってほしい。  抱くんじゃなくて、抱かれる意味で。   それまで俺は頑張るしかないと思ってるんだから。  でも身体を強ばらせたあんたも可愛い。  辛いけどそんなあんたを抱きしめて、髪の匂いを嗅いで、首筋に顔をうずめた。  それだけでもいい。  それに、あんたに抱かれるのは・・・嫌いじゃないんだ。  抱きたいけど。  抱けないなら、それでいい。     あんたに触れられるなら何でもいい。    「あんたのしたいようにしていいよ」  俺は囁いた。    嗚咽が聞こえた。    ええ?  ええ?  俺は混乱する。  泣き声?  誰の?    ええええ?  俺の肩が濡れる。  ええええ?  俺は慌てた。  あの人の両肩をつかんで、抱きしめていた身体を引き離す。  そして、あの人の顔を覗き込んだ。  あの人が泣いてた。  声を殺して。  殺しきれない嗚咽がその口からこぼれる。  透明な涙が一つ、一つ、その目から溢れ、頬を伝い落ちていく。  あの人は泣くのを必死でこらえようとする子供みたいに、歯を食いしばり、それでもあふれてしまう涙に気づかないように泣いていた。  なんなの。   どうして。    「泣かないで。お願い泣かないで!!」  俺は慌てふためく。  また抱きしめて抱えたままベッドに座る。    「お願い・・・泣かないで」   俺はあの人の背中を撫でながら必死で言った。      なんでこの人がこんな風に泣くんだよ。  「お前・・・はいつで・・・もわかっ・・てない」  あの人がしゃくりあげながら俺の胸に顔をうずめて言った。  「ごめん。ごめん。本当にごめん」  俺はあやまるしかない。  でも全然分からない。

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