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約束の場所 2
精液を出す寸前に喘いで動いた時に、ベッドに広げていた本から写真が落ちた。
貪るように精液を喉をならしながら飲む、信者より、その写真が気になった。
指でつまみ、その写真を見た。
広い空。
広い大地。
どこまでも続く草原。
テレビすら見たことのない目にあまりにもそれは鮮やかだった。
狭い場所で身体を弄られるだけの毎日。
空が広いことさえ、知らなかった。
【神】のモノを上手に口や穴で咥えることや、文字でしか知らない知識しかなかった。
神と巡る教団の施設、教団の作った村。
小さな世界しかしらなかった。
たった一枚の写真は広かった。
小さな手に乗るような写真が、どこまでも広かった。
空を見たいと思った。
どこまでも続く大地の地平線を見たいと思った。
胸が高鳴った。
良くしる身体の快楽よりはるかに・・心が高揚した。
信者に頼んだこの写真をくれ、と。
信者は困った顔をした。
だけど、咥えてやったならそれをくれた。
口の中で出すのはだめだけれど、咥えて舐めて手で出してやった。
幼い頃から教えこまれたそれは色んな信者に秘儀を施すと云う名目でセックスをしてまわっている【神】でさえ、声をあげ悶えるほどのものになっていた。
骨抜きにするのは本気になれば簡単だった。
舌や指に、何度も叫び、悶えて蕩けた信者はその写真をくれた。
決して誰にも見せないように、と言って。
外の世界について教えることは【神】の許可が必要だったからだ。
その写真は大切にしまいこんだ。
空を見る度に思った。
この空はあそこに続いているのだ、と。
その広さを思った。
そして、知った。
自分が閉じこめられていることに。
閉じこめられて、貪られている、と。
「美しい」
その言葉も崇める言葉も全て・・・檻でしかないことに。
たった一枚の写真が教えてくれた。
自分が・・・虐げられていることを。
いつか、ここへ行く。
その風景を頭に刻み込む。
人間の肌が溢れる光景、【神】の生臭いものを咥える行為、沢山の生臭い液体に汚されながら、心はその場所にいた。
その場所だけが蠢き貪る人間達から、遠ざかるたった一つの方法だった。
でも、写真を見つかったのはわずか数ヶ月後だった。
【神】は何も見逃さない。
何も言わなかったのに、それに酷く焦がれていることさえ見破られた。
さすがに写真をくれた信者が殺された時には多少は胸が痛んだ。
修行のためにつかう水槽に何度も何度も漬けられ、動かなくなったのを見せつけられた。
気の毒にと思いはした。
けれど、この信者が何かを教えてくれたわけではなく、全てを教えてくれたのは写真そのもので、この信者はただの写真の運び手だったと気づき、なんとも思わなくなった。
その後、いつもにも増して、何日も何日も・・・【神】に犯され続けたのには閉口したけれども。
嘘なら付き慣れていた。
咥えたり舐めたりするのと同じ位慣れていた。
だから【神】が喜ぶような泣き方をしながら嘘をついた。
泣き叫びながら付く嘘は効果的だと知っていたから。
「ごめんなさい、外に興味なんかもちません、許して下さい」泣いてみせた。
もうやめて、やめてと泣き叫べば叫ぶ程満足する事は知っていた。
身体を震わせ、泣きながらイってみせた。
「これが好き。こうしてほしいから逃げない」と。
喉の奥まで使って咥えて、これが好きでたまらないと、飲んでみせた。
「美味しいです。もっとください」と。
そんなことは何ともなかった。
慣れていた。
ただ、写真を捨てられたことだけは許してない。
奪われ、破かれたことは許してない。
それを信者達の誰もが当然のように見ていたことも。
あの日、憎しみが生まれた。
小さな手の平にのる大地や空さえ奪ったのだ。
本物を奪うだけでは飽きたらず。
それは小さな殺意だった。
でも、これを育てると決めた。
これはここで与えられたものだ。
空でもない大地でもない。
与えられたのはこの殺意だった。
育て続けた。
教団はそれが育つには最高の環境だった。
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