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約束の場所 4

 初めて会った時から面白すぎた。  連続セミナー殺人を調査に来た男だった。  つき止められていたことに驚いたが、  泣いて命乞いをしながら、人の首を斬りにきたのはもっと驚いた。  化け物になっていなければ、確実に死んでいた。  こちらが反則をしていなければ、ゲームは向こうの勝ちだったのだ。  嘘が本職のこちら顔負けの嘘つきだった。  しかも嘘が何故か見破られ、能力が通じない  あまり面白いので犯したら、誰かの名前を呼びながらそれでも感じる淫らさに思わず夢中になった。  酷くしてもイケる身体は好みだった。  思わず隠れ家に連れ帰ったら、こちらが作って出してやった食事まで食べる図太さにますます気に入った。  しかも。  今度はこちらの知らないルールを使って、逃げ出そうとした。  まさか、不死身になるとは。  しかもその頃を見計らって包丁で自分の腹を刺すなんて・・・。  どうしても、気になって離れられなかったのでなければ、確実に負けていた。  人の心はゲームでしかない。  人を騙すと言うことは、そのゲームの達人であると言うことだ。  そのプロフェッショナルが何度も出し抜かれた。  面白すぎた。  生かしておくのが楽しくなって、せっかくだからその心もこちらに従うようにしてみようかと思った。    意志を縛れることはわかったが、もう少し、そう自主的に心を捧げさせてみたかったのた。  生かしておくことにしたのは、こちらが知らない知識を持っていたし、自分が何になったのか、この能力が何なのか、それを教えてくれる存在だったからだ。  結果的に大正解で警察以外にも追われていることがわかった。  だけどこの男は面白すぎた。  心はともかく、あまりにも簡単に身体は明け渡してくれた。  むしろ、楽しんでくる。  むしろさせろ、と迫られさえした。  監禁相手とのセックスをこんなにも簡単に楽しめるものか。  呆れる位におもしろくて、セックスも夢中になった。  全くこちらに怯えない様子も、呑気に構える様子も、でもその裏で実は切れる頭をフル回転させているところもとても面白かった。  油断ならないのに・・・。  死体の解体まで手伝われた時には流石に驚いた。  不器用なのを見かねたのはまちがいない。  でも意志を縛られ、止められないならそれはそれ、と。  凄まじい割り切りをしているのだと。  仕方ない。  ならこうする。  与えられた条件で常に最善を目指し続けてる。  いつも笑って怒っていて、殺人鬼相手にさえ、その場限りとは言え心配や優しさを与える。  嘘をつくくせに、思いやりは本物なのだ。  こんな人間がいるなんて。  そして気付く。  全ては、一人の男の元に帰るためなのだと。  「愛してる」  と優しく囁いて抱けば乱れるのも。  恋人を抱いてるつもりの傭兵に抱かせてみたなら、あれほどまでに感じるのも。  その男にそう言われてそう抱かれたいのだと。    最初は面白がって言っていた「愛している」の言葉が言えなくなってしまった。  それは、嘘ではなくなってしまったのだと知った。  誰かを深く愛している男は、何時でも逃げようとしている男はそれでも本当に優しかった。  誰にでもそうなのだと思った。    「美しい」からでもなく、与える「嘘」のためにでもなく、そんなものはどうでもよく、ただ単に目の前にいる誰にでも優しいのだと知った。  それが殺人鬼でも。  聖人でも。  そんなバカな話は、本当にあった。  どうしようもなく惹かれた。  こんなに簡単な優しさをもらったことなどなかった。  好きなだけ抱けた。    好きなだけ甘えられた。    優しくすれば簡単に身体は溶けて、いくらでも欲しがり乱れた。    誰が相手でも。  それが切なくなったのはいつからか。  でも、この男は、待っている男の元へ帰るのだ。  自分を抱きもしない男の元へ。  帰るために全力を尽くすのだ。  嫌だと思った。  欲しいと思った。  初めて思った。  人間を欲しがったことなどなかった。  欲しがられ貪りつくされはしても。      

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