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触ってみてよ
「黒杜さん、触ってみてよ」
朱雀紅にパトロンになってもらい通っていた大学をやめ、美術系の予備校に通いはじめ、生活が安定した頃。
北乃宮黒杜は風呂上がりの朱雀紅に迫られていた。
「えと、紅……くん?」
就寝しようとベットに横になったところに紅が入室してきた。
ベット脇におかれた椅子に座り黒杜の顔を上から見つめた。
「いきなりシよとは俺も言わないからさ」
紅は黒杜をまっすぐ見つめる。
「俺は黒杜さんに触られてみたいなって」
そうってこてっと首をかしげた紅は無垢に見えて可愛かった。
いや、実際知識はあったとしても彼は無垢なのは当たり前なのだが。
これは据え膳食わぬは……というやつだろうか。
黒杜は起き上がると紅の上半身を抱き寄せた。
どちらも発情期ではないはずで、いまも紅は抑制剤を飲んでいるはずだが、彼からは薄いメープルシロップの香りがした。
彼の首筋に鼻を寄せて胸一杯に香りをすう。
黒杜もアルファ用の抑制剤を飲んでいるためフェロモンとして感じることはないが、好意を抱いてくれてる子の香りはやはりクるものがある。
「ぼくもはじめてなので、あんまり期待しないでくださいね」
紅が黒杜の肩口で微笑んでうなずいた気がした。
紅にベットに誘ってとなりに座ってもらう。
紅を抱きしめて首筋でもう一回香りを吸い込む。
そしてそこにはじめに音をたてて口付ける。
一応ほぼ学校にいってない学生とはいえ、跡をつけないほうがいいだろうとそこは気を付ける。
「紅くん、いいにおいがするよね。メープルシロップの香りがする」
「じぶんじゃわからないからなぁ」
「とてもいい香りだよ」
そういって首筋から上にいき彼の耳たぶを口に含む。
「んっ」
紅がみじろいだのでパッと口を離した。
「大丈夫?いたかった」
「ううん。いたくはなかった。なんかちょっと変な感じ」
「じゃあ、続けるけど嫌だったら言ってね」
「うん」
黒杜は紅の耳たぶをふたたびくちにふくんであまく食む。
ふたたび紅はみじろぐが嫌とは言ってないので、続ける。
まわりをじょじょになめていき、耳全体を口で含んで耳を口の中でなめた。
「ひゃっ」
ひときわ大きい声をあげたので口を離した。
彼は顔をあからめもじもじしている。
「やっぱり、やめとこうか?」
「だ、大丈夫」
そう顔を真っ赤にさせた彼はやはり知識はあってもうぶだったのだろう。
その恥ずかしそうに目を潤ませる彼にそそられる自分を制止しつつ、少し離れて黒杜は彼の頭を撫でた。
「今日はここまでにしようか」
「でもっ」
食い下がる紅に黒杜はさとす。
「ぼくは学生未満だし、紅くんも学生だし、急ぐ必要はないんじゃないかな、そのかわり」
ふたたび紅の体をつつむようにだきしめた。
「今夜はこうやって抱き締めて眠っていいかな」
「……黒杜さんがいうなら」
紅が拗ねたような声を出した。
そんな紅を始めてみたので、黒杜はおもわずクスクス笑った。
「……なに」
「紅くん、かわいいなぁって」
「……俺はかわいいもん」
ぶすくれた声でそう答えるものだから愛おしくていっそう黒杜は紅を抱きしめた。
その夜は、紅を抱き締めて眠りについた。
まだなにも強制されなかった幼い頃、
その時食べた母親のメープルシロップがかかったパンケーキの夢を見た気がした。
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