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保健室の王様
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ええと、今朝はたしか、いつも通り2時間くらいしか寝てない中、1限目から成績的にサボることを許されない日本史が入っていて、真面目に受けて。
2限目は英語。3限目は化学と得意科目だからサボろうと屋上に来たんだ。
さすが新設校。ベンチとか、芝生とか。綺麗なままあって春の暖かい日差しの中最高の眠りにつけるのかと目を閉じたのが最後の記憶。
………で。
「おい、こいつ抵抗しないぜ?手放していいんじゃないか?」
「ばか!油断させよーとしてんだよ」
「とりあえず、口止め用の写真とるか」
目の前にはオレの体を押さえつける三人の男たち。だれかにこの状況説明してほしい。
『お前気を付けろよ。ここ男子校だからか、男色家多いし、お前顔だけは性格に反比例して無駄にいいんだから』
………ああ、そういえば、ゆーいちがそんなアホみたいなこと言ってたな。
転校してきて1週間。普通の高校とかわらないと油断してたけど、本当にこーゆーのがいるんだ。
転校生いじめか、カツアゲかとも思ったけど、服に手をかけられたことでその線は消える。
さすがに今から、何されそうになってるのかわからないほどオレも子供じゃない。
スポーツは得意だけど、筋力はある方じゃないし、抵抗してもこの人数相手じゃなぁ。
口を一応押さえられてるけど、叫べば誰か気付くかもしれない。
………でも、それってあとがめんどくさそう。
あっちでは、オレもまぁまぁやさぐれてたし、力が弱いなりにも喧嘩も弱くはないと思うけど。
どうにも今後のことを考えるとめんどくさい。
でも、写真はさけてほしいなぁ。男に強姦されましたなんて、普通に言わないからさ。
てか。こいつらだれ。ネクタイの色からして三年生ってのはわかるけど。
「怖くて、声もでないの?でも、ルリくんが悪いんだよ?」
「こんな細くて小さな体で、女みたいな顔したやつがこの学校で普通一人でサボって人気のないとこになんて普通来ないよ」
「わざととしか思えない」
クスクスと笑いながら男の手が延びて肌に触れる。
どうでもいいからさ。早く終わらせてよ。オレは眠いんだから。
諦めて。目を閉じようとした瞬間。
「おーい、お前ら。ちょっとオイタがすぎるんじゃねぇの?のんびり一服もできないんですけど」
聞き覚えのある低い声が冗談めかしたトーンで響いた。
ビクッと弾かれたように3人がオレから手を離し、一斉に声の方を見る。
「つ、月城!!」
「先生つけろよ。三年の秋元、榛葉、徳本」
「ひぃっ」
へぇ、あいつらそーゆー名前なんだ。
せんせーにジロッと見下ろされ『いや、これは……』と、しどろもどろなっている。
相変わらずこの綺麗な顔は怖さを感じるほどの迫力がある。
しかも、目だけは一切笑ってないから余計に。
オレも乱れた服を直しながら起き上がると、せんせーと目があったから、大丈夫ですよって意味を込めて笑って見せた。
「とりあえず、なかったことにしてほしいなー」
いつも通りの笑顔で、この緊迫した雰囲気をなんとかしようとゆるーく声を出すと、3人が目を見開き、せんせーは静かに眉を潜めた。
「あはは。勘違いしないでね?先輩達かばってるわけじゃないからー。ただオレとしても、転校してきて早々問題起こしたくないだけー」
めんどくさいし、と淡々と言葉を続けると、さっきまでの威勢はまるでなく、三人は「え、いや、」「でも、」と、挙動不審にお互いを見合っていた。
「そのかわり、二度とオレの視界に入らないで。次は容赦しないよー。脅しじゃなくて、オレは日本みたいなのんびりした国で育ってないから、してきたヤンチャの度合いもあんたらみたいに甘くないからねー」
これは、割りと本気。オレにも一応プライドあるから。
「……とりあえず、本人がこう言ってんなら、俺もめんどくせぇし、これ以上口出ししない。めんどくせぇし」
「あはは。めんどくさいって二回言ったー」
ほんと、だれだ。この人教諭にしたの。
せんせーはタバコをポケット灰皿にもみ消すと『お前はついてこい』と、オレを指して顎でくいっと促された。
まぁ、ここにこいつらといても気まずいけど、めんどくさい話始まるんだろうなぁと、こっそりため息をついた。
それから、黙り込んだ三人を残して、せんせーと屋上をあとにした。
ああ、改めて、男子校めんどくさいなと、こんな学校にいたゆーいちをすこし恨んだ。
そして、歩いてる最中、終始黙ったままだったせんせーと保健室に入る。
どかっと椅子に腰をおろし、ようやく口を開いた。
「ほら。手出せ」
「え?」
出せと言われた手を見ると、明らかに押さえ付けられましたって青アザがくっきり残っていた。
「気がつかなかったー。あはは、ホラーだねぇ」
気付かなかった。あいつらどんな馬鹿力で押さえたんだよ。
言われた通りせんせーに手を出すと、湿布を丁寧に腕に巻き付けてくれた。
それから、とれないよう上からテーピングまで。
「リスカしてる子みたーい」
手当てされた手をぷらぷらせると、またせんせーはタバコに火をつけ、ふっと笑った。
「リスカしてる奴はもっと慎ましやかだよ。なんださっきの啖呵」
「いやぁ、オレのコカンに関わる大事態だったものでー」
「……コケン、だろ」
「あはは。それそれー」
さっきのこと、聞かないでくれるんだ。
いいね。ほんとに、このせんせーのこーゆーとこ。
冷たいっていう人もいそうだけど、めんどくさいといいつつ、さっきは助けられたわけだし。この、手当てだって、大袈裟なくらい。
「お前、たしか編入試験の平均点数80点超えだったんだっけか?」
唐突にせんせーが口を開いた。
「え?うん。国語の63点がなかったら90点いけたにねぇー」
いきなりなに?
突然変わった話題についていけず首をかしげると、更に「苦手、得意選んで教科サボってんだよな?」と聞いてきた。
「うん。……え?やだよ。オレサボるのやめないからねー?」
冗談っぽく笑いながら言うと、諦めたような半笑いのため息。
「仕方ねぇから、赤点を絶対とらない。留年にならないって条件ならここで一日1時間くらいサボらせてやるよ」
「え?いいの?せんせー的に」
また、言葉が意外すぎて、つい笑うのを忘れた。
「いいよ。いつも目の下にクマあるし、止めてもサボるんだろ。せんせー的にあーゆー厄介事起きる方がめんどくせぇから」
「わーいっ!ありがとー!やっぱりベッドでゆっくり寝たかったんだー!」
わざとらしい喜びかたをしてせんせーに抱き付くと、鬱陶しそうに振り払われた。
なんだ、このせんせー普通に優しいじゃん。サボり魔匿うなんて、めんどくさいだろうに。
ここに転校してきて1週間。
ゆーいちの家以外に気楽に過ごせる空間ができた。
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