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透明な少年
千side
あいつに対する第一印象は、とくにない。
ただ白に限りなく近いプラチナブロンドの男にしては長めの髪や、雪のように白い肌。小さな顔に、大きな翡翠色の瞳。
長い睫毛までもが色素が薄く、全体的に白や透明をイメージさせるそいつは、日本人離れした美しさがあり、まるでよくできた人形のようで目をひいた。
まぁでも、野郎に美しいなんておかしなたとえだけど。
何をいっても、気にした様子もなくへらへらとかわして、他と比べても高校生らしさを感じない。
まぁお国柄なんだろう。イギリスといえば英国紳士って言葉があるくらいだ。
そんなどうでもいいことを思いつつ、屋上の綺麗な空気の中またタバコに火をつけるとキィと、俺以外の誰かが屋上に入ってきた。
ここの生徒は真面目なやつばかりだし、今は授業中。教師だろうと覗くと、まんまと外れた。
『ねみー。頭いたーい。今日天気いーなぁ』
へぇ、あいつ英語も喋るんだ。
まぁ、産まれも育ちもイギリスなんだから当然だけど。普段あまりにも流暢な日本語を話すせいで、英語を話すアンジェリーは新鮮に見えた。
向こうは俺に気付いてない様子で、眠たそうにあくびをして、大きく体を伸ばしていた。
柔らかそうな、ゆるくウェーブのかかった髪が、さらさらと風になびき太陽に反射している。
まるで、ひとつの美術品のように、この綺麗な景色によく映えていた。
俺も女に困ったことはないけど、中々ないよな。このクラスの顔立ちは。どうでもいいけど。
一応教師としてサボるなと、注意するべきなんだろうが、めんどくさいので気付かなかったことにして、もう一本吸って屋上を出ようと2本目に火をつけると、またキィと扉が開いた。
今度は3人。たしか3年だったか。
そいつらは俺に気付くことなく、アンジェリーの寝転ぶベンチに真っ直ぐ進んでいった。
おいおい、嘘だろ。
この学校じゃ男色は珍しくないにしても、強姦なんて。
気づいたアンジェリーも、無抵抗。
押さえ付けられて、服まで脱がされそうになってるのに、冷めた目をついに諦めたように閉じた。
考えらんねぇ。貞操の危機だっつのに。
「おーい、お前ら」
声をかけると、ビクッと化け物を見るように俺を見上げる三人。
そいつらとは裏腹に、何を考えてるか読めないアンジェリー。
しかし、俺と目が合うこの場に不釣り合いな笑顔を見せた。
いつもへらへらへらへらしてるやつだけど、こんなときまで。
その、張り付いた笑顔が無表情と変わらないように見えてくる。
感情が欠落してるんじゃないかと思うほど。
「一日1時間くらいサボらせてやるよ」
だから、らしくもなく世話をやいてしまうのは特別な意味はなにもない。これでも一応、俺は養護教諭だから。
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