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透明な少年
リチェールside
喧嘩していたカップルの男性を表から出したんじゃ、かなり注目を集めていたし気まずいだろうから裏口からそのまま帰し、ホールに戻った。
さてと。せんせーにここでのバイトバレたわけだけど。これからどうしよう。
まだいるかな?
これって、下手したら退学とかにならないよな。
やだなぁ、せっかくゆーいちと同じクラスになれたのに。
バイトも新しいとこ探さなきゃ。ここ、給料よくてありがたかったんだけど。
憂鬱な気持ちでホールに戻り、せんせーがいた席に目をやると、さっきまでつぶれていたお連れさんが元気になって逆にさっきまでしっかりしていたせんせーがつぶれてテーブルにうつ伏せていた。
てか、あの人お茶飲んでなかった?なんで?
近くにいた従業員に話を聞くと、どうやら他のテーブルのウーロンハイと烏龍茶を間違えて持っていったらしい。
しかも、濃いめ。
グラスは半分も減っていたから、気付かず一気をしたらしい。
とは言え、たかがウーロンハイで………。
近寄ると、お連れさんとオーナーが困ったように話し込んでいた。
「千はアルコール一切受け付けない体なの。あーもー、どうすんの?僕こんな大男担げないからね」
「こちらのミスです。申し訳ない」
へぇ。意外。あんないかにも遊んでそうな顔してゲコだったんだ。
なんか可愛い。
……そこで、ふと悪いことを思いついてしまう。
これって恩を売るチャンスじゃない?学校に黙っててもらうためのさ。
「あのー、自分ん家近いんでうちに連れて帰りましょうか?」
「えー?」
二人の会話に混ざるとオーナーとお連れさんが同時にオレを見る。
「自分ん家ここから徒歩圏内なんで、タクシーでも料金そんなにかからない距離ですし、一人暮らしなんで問題ないですよ」
「なーにー?君下心あるんじゃないの?」
面白そうにからかうお連れさんに、ちょっと困る。
オレ男なんだけど、言えないしなー。せんせーとの関係も。
それにこの人が想像してる意味とは違うけど、下心があるのは事実だ。
「えーと……」
「蒼羽さん、大丈夫ですよ」
苦笑いしか返せないオレに代わりオーナーが入ってくれた。
「彼は男なんで。それに知り合いらしいですし」
「ふーん」
てか、オレってそんなに女顔?説明必要なくらい?結構ショックなんだけど。
「まぁ、いいや。僕は明日仕事で面倒見れないし。千のことよろしくね」
この人次の日仕事なのにあんなに飲んでたんだ。すごい。
「はい、任せてください」
にこっと笑うと、蒼羽さん?って呼ばれる男性はスッと名刺を取り出した。
「これ、僕の連絡先。千が起きたら教えて」
「わかりました。オレはリチェール・アンジェリーと言います」
名刺なんてもちろん持ってないし、すぐにポケットからメモ帳を取りだし、携帯番号と名前を書いて蒼羽さんに渡した。
「じゃあ、タクシー呼ぶから、ルリ君ちょっと早いけど上がっていいよ。着替えておいで。これ、タクシー代ね」
てきぱきと指示をくれるオーナーの手には5000円札。
「こんなにいただけませんよー」
あわてて返そうとしたけど、受け取ってもえなかった。
「いいって。なんか俺がいない間に活躍してくれたんでしょ?ほかのバイトには内緒だよ?」
優しく笑ってくれるオーナーの気遣いに甘えることにして、お礼をいって受け取り、裏にむかった。
着替えを済ませて荷物をとって戻ると、すでにタクシーは来ていたらしく、オーナーとバイトの力持ちの男性二人がかりでせんせーをタクシーに運び、もう一度蒼羽さんには会釈をして、車を発進させた。
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