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透明な少年

─────── 「……お………っも」 家につくとタクシーの運転手に頼み込んでなんとか三階のオレの部屋まで運ぶことまで手伝ってもらい、寝室のベッドに投げ入れた。 「本当に助かりましたー。ご迷惑おかけしちゃってごめんなさい」 「いやいや。女の子一人じゃ男は担げねぇもんな。俺も運んでる間もメーター回してもらえて助かったよ」 申し訳なさそうに笑うと、運転手は特に気にした様子もなく笑ってくれた。 タクシーまで運転手を見送り、料金を支払うとすぐに部屋に戻り蒼羽さんに無事家についたことをショートメールで連絡した。 アルコールを一切受け付けない体質の人が飲んでしまった場合どうしたらいいかわからないけど、蒼羽さんもオーナーも焦った様子はなかったし、とりあえず寝かせとけばいいよね? 寝室に入ると、すやすやと鼾もかかずに安らかに寝ているせんせー。 寝顔を見るとつくづく思う。本当にこの人顔だけはとんでもなく整ってるなぁ。 女遊びは盛んだとか。色んな女取っ替え引っ替えだとか、月曜日なら日曜日まで違う女を相手にしてるとか、千人食いの千とか、バカらしい噂が耐えないけどこの顔じゃ嘘かほんとかわからなくなりそう。 とか、そんなこと考えてないで、オレもさっさと寝よう。明日は土曜日でようやくちゃんと寝れるんだから。 「せんせー?体起こすよー」 「…ん……」 上体を少し起こして、ミネラルウォーターを少しずつ口に流し込むと苦しそうに顔を歪めたけど、なんとか少し飲んでくれた。 タオルで口許を拭い、そっと頭を枕に戻した。 よし。あとは明日起きてからしよう。 うちは1DKと狭いし、ベッドは一つしかないから、リビングのソファで寝ようと立ち上がろうとすると、腕を捕まれぐいっと引き込まれた。 「わぁっ」 気が付くと大きな腕の中にすっぽり収まっている。 いやいや、おかしいでしょ。 いくらこの人の顔がよくても、男に抱き締められても嬉しくないよ。 オレを彼女かなんかと勘違いしてる? それとも、抱き癖でもあるの? どっちでもいいけど、起きて気分悪くなるのせんせーだからね。  「せんせー、おきてー」 ただでさえバイトがバレて気まずいのにこれ以上気まずくしてたまるかと出ようともがいても力が強くて動かせない。 夜中だから大声を出すわけにもいかずあきらめて体の力を抜いた。 変な意味はないけど。 こうして抱き締められたのは記憶がある中では初めてだ。 だから、この温もりが恥ずかしいような、くすぐったいような。 ───きもちいい、ような。 だんだんと重たくなっていく瞼に逆らわず、ゆっくりと意識を手放した。

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