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冷たい背中

_________ カレンダーに目をむけ、思わずため息がこぼれた。   ……めんどくさい合宿がやっと終わったと言うのに。 来週からはもうゴールデンウィークだなんて。 「なんだよ、ため息なんかついて。つーか起きたなら早く授業もどれ」 声の方を見ると、せんせーがペンを器用に指で回しながらこっちを見ていた。 「やだよー。めんどくさーい。期末テストも無事学年4位だから充分でしょ」 「もう少しで連休だろ。先生、一学期の最後くらいお前の真面目な姿見てみたいんだけど」 その言葉をそのまま返したい。オレもせんせーのまじめな姿とか見てみたいよ。 「連休かぁ。ほらー、オレって真面目だから学校ないなんて嫌なんだよねー」 「どの口が言ってんだ。合宿中は休みを返せって騒いでたくせに」 「土日は別なのー。プライベートな時間なのー。稼ぎ時なのー。でも平日は学校がいいのー」 「めんどくせぇやつ」 ハッとせんせーが鼻で笑う。 最近はこんな他愛のないやりとりが増えた。 サボりたいとか、眠たいとかだけでなく、ゆーいちの家のような居心地のよさにここにたくさんいたくなる。 「せんせーたちはゴールデンウィークもがっこー?」 「半分くらいはな。今ほど時間は長くないけど」 「ふぅん」 いいなぁ。連休なんて、本当にいらないのに。 「お前は?イギリスに帰るの?」 「うん。二泊だけだけどー」 「なんだよ。帰りたくねーの?」 ふつーに笑顔で答えたつもりだけど、なんでこの人はこんなに鋭いんだろう。 「あはは。なんでー?別にまだこっち来て一ヶ月くらいだし、たしかにまだ寂しいとかないけどさー、帰りたくないとかないよー。いちおー地元だし」 うそだよ。帰りたくない。 せんせーは特に気にした様子もなく「そうか」とだけ言って椅子をくるりと机にむきなおした。 オレももう一眠りしようとベットに潜り込むと、コツンとなにか小さいものが降ってきた。 見てみると、イチゴミルクのアメ。 「なにこれー?」 「アメだろ」 それは見たら分かるけど、なに顔に似合わないの持ってるの。 「生徒からもらった。俺は食わねぇし。やる」 「えー?いいのー?もらうけどさー、せんせーに好意があってとかのものじゃないのー?」 「なんだよ、ヤキモチですか?うぜー」 せんせーが意地悪に笑う。 なにがヤキモチだよ。 「ばかじゃないのー」 悪態をつきながらも、口にいれたアメは優しい甘さで、さっきまでの憂鬱さが少しほぐれた気がした。 せんせーにも、お土産買って来なくちゃな。 なんて、思えるくらいに。

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