20 / 594

冷たい背中

よくあることのひとつだ。 誰だって人には言えない過去の一つや二つあるものだから。 オレの両親はお互いの不倫を気付かないふりをする今時珍しくも無い仮面夫婦。 大学教授の父親と弁護士の母親。 共働きの親が家にいないのは昔からだったし、別段それが寂しいとかも思わなかった。 ゆーいちの家にもいっぱい泊まれたし、ゆーいちの家族から愛情はもらえていたから。 父親と母親、どちらの不倫が先だったのか知らないし、気にもならないけど、母親が冷めきってるのに対して、父親は浮気相手も母親もどちらも手放せない典型的な浮気症男だったらしい。 これも、よくあることだよね。 だから、もう他の男に手を出された妻ではなく、妻と瓜二つの幼い息子に手を出したのも、実はみんな言わないだけでよくある話なのだろう。 こんなの不幸自慢にもならない。 ………当たり前すぎて、ヘドが出る。 『エリシア、愛してるよ。……僕だけの、僕だけのエリシア』   今、こうして目の前で苦しそうに妻の名前を呼んで、乱暴に行為をしてくる親父をみて、何も思わない。 ガツッ、ガンッ 何発殴られても、乱暴に犯されても、なんの感情も湧いてこない。 ただ、早く、気を失ってしまいたいと、目を閉じて時間が過ぎるのを待つだけ。

ともだちにシェアしよう!