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冷たい背中
ベットの軋む音で目が覚める。
オレいつの間にか寝てたんだ。と、目を開けると、カーテンから仄かに明かりが漏れて、朝になっていた。
ああ、そうだオレはイギリスに来ていたんだ。と憂鬱な気持ちになり、ため息をこぼした。
寝たのはほんの三時間くらいだけど、昔の夢を見た気がする。
イギリスで、まだ幸せを感じていた頃の夢。
ああ、早く日本にかえりたいな。
そうして目を閉じて、一番に思い浮かんだのは何故か保健室の風景。
____あ、会いたいかも。
あの、俺様で横暴な教師に。
こんな怪我だらけのオレをみて、めんどくさそうにするかな?ううん。しない。
あの人は憎まれ口ばかり言うけど、実際はとても優しい人だから誰よりも心配してくれるんだろう。
だからこそ。こんなカッコ悪い姿見せたくないような。
でもやっぱり、一番に会いたいような。
よく、わかんないや。
……そう、思ってたのに、日本に戻ってきた。
書類を届けにまだ休みの学校に行くと、担任は怪我を見て驚いていたけど、階段から落ちたと言うと、それ以上は追及しなかった。
何かあれば教えてね。と言って深く聞かないでいてくれた。
保健室によろうか少し考えて、やめた。
会いたいけど、やっぱりこんなダサい姿せんせーには見られたくない。
そう思って学校を出たのに、結局校門を出たところで出くわしてしまった。
案の定、心配されて、オレの適当に貼ったお粗末なガーゼに、ちゃんと手当てするからと、家にまで連れてきてもらってしまった。
申し訳ない気持ちも大きいけど、やっぱり嬉しくて。
この人のタバコと香水の混ざった匂いはやっぱり安心するなって自然と顔が緩んだ。
一つ一つの傷を丁寧に手当てしてくれて、虐待のことも心配してくれた。
それこそ、いつもみたいにめんどくせぇとか言って、担任みたいに気づかないフリをしたらいいのに。
それから、過去の話を聞いた。
時間が経ったからって触れられるのはきっと痛みを伴うだろうに。
「頼られたら、それなりに助けになると思うけど」
ぶっきらぼうに言われて、なんだか少し、泣きそうきなった。
この人だって傷を抱えて、普段はそれを一切見せずに生きてるのに。
オレならいつまでたってもきっと誰にも言えない。情けなくて。
でも、この人は優しいから、人の傷のために自分のことだって言えちゃうんだ。
「せんせーは優しいね。子供は親を選べないけど、それでも自分の気持ちの消化の仕方を見つけて、それを人のために話せるから。親から、たとえ愛情が貰えなくても、そんなせんせーだからいろんな人から好かれて愛されるんだね」
だから、オレの幼い頃からの決心をこんなにも暖かく鈍らせるんだ。
頼りたい。助けてって思わず言いそうになって、飲み込んだ。
「………お前は器用なのか不器用なのかわかんねぇやつだな」
複雑そうな表情でせんせーにわしゃわしゃと頭を撫でられる。
大きくて、暖かい手。
親父と同じ大人の男の手なのに。こうも違うなんて。
この手になら、ずっと触っていてほしい。
この感情は、なんだろう。
ゆーいちといるときの安心感とはまた違って。
すごく心地いいのに、ちょっと切ない。
「お前の話せるタイミングでいいから、限界になる前に頼れ」
胸が詰まって、うまく笑えない。
ただ、あの、せんせーが家に泊まった日のように抱き締められながら寝れたら、幸せだなって。
それこそ、男同士なのに気持ち悪いか、と考えに蓋をした。
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