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後戻り

せんせーは、僅かに驚いたような表情をして、すぐに目を細めた。 「あー、はいはい。俺も好きですよ。可愛い生徒は全員な」 やんわり突き放した優しい言い方だと思う。 さりげなく、周りに人がいないかを確認して、言葉を続けた。 「うん。今はそれでいいよー。オレね、せんせーの不器用な優しさとか、ちょっと冷たいとことか全部含めて好きだよ」 せんせーのスカイブルーの瞳と視線が交わって、ドキドキ、ズキズキする。  あなたに、オレはどう映ってるだろうか。 いつからオレはこの人が好きなのかなぁって少し考えて、思い浮かんだのは、あのレイプされかけた屋上だった。 あの日もこんなこと慣れてるし、早く時間が過ぎたらいい。何もかもがめんどくさいって目を閉じたのに、初めてオレを助けてくれる人が現れた。 オレの怪我を見て、触れられたく無いだろう過去を話してまで、オレの心に寄り添おうとしてくれた。 どうしてこんなに優しい人を冷たいと見てしまったのか。 せんせーが冷たいのは、傷付いてきた傷跡なのに。 あなたはそんな自分の傷さえ人のために剥き出しにしていたのにね。 ほら、やっぱりこんなこと気づいてしまったら後戻りなんてできないんだ。 「せんせー、オレのこと好きになってなんて言わないよ。男同士だし気持ち悪がってもいい。でも、オレが本当にあなたのこと大好きなことが伝わるよう頑張らせてください」 「……お前はもっと頭のいいやつだと思ってたんだがな」 せんせーがバカにしたように冷たく笑う。 胸が少し傷んだけど、オレも笑って見せた。 「うん。オレも自分はもっと器用な奴だと思ってたー。せんせー、こうなった責任とってもらうから、覚悟しといてね」 そう言うと、悲しくもないのに、何故か涙がこぼれそうになって、「急にごめんね」と一言残して裏に行った。

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