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妬み

告白したままバックヤードの仕事が忙しくなりバタバタとしていたらいつのまにかせんせー達は帰っていた。 そして今日、GW明け。 教室で時間割りを見ながらため息をついていた。 せんせーを好きだと、ほぼ衝動的に伝えてしまった恥ずかしさが今更来て、なんだか保健室に行きづらい。 まぁ伝えたことに不思議と後悔はないし、伝えたからにはガンガン責めて、あの恋愛不信のひねくれ者に気持ちを伝えて行こうって決意に迷いはないけど。 「ああ、もう」 また、ため息。 次の2限目は数学。 イギリス人は計算が苦手なんて言われてるらしいから留学前に特に集中して勉強してきたから、学年順位は一位。 いつもならサボって保健室に仮眠をとりに行くのに。 怖いさと恥ずかしさばかりが込み上げて、中々いつもの調子になれないなんて、人を好きになるっていうのは、想像の倍くらい厄介だ。 それに、せんせーが今までみたいに受け入れてくれなかったら、なんて考え出したら早くも心折れそうになってくる。 「ルリ、次数学だけど、受けるの?」 頭を抱えたりとか、あからさまなことは一切してないのに、ゆーいちが少し心配そうに顔を覗きこんできた。 「受けないよー。保健室に寝に行くー」 「なんか本当に具合悪そうじゃない?顔、赤いけど」 「……そんなことないけど」 顔赤いとか、言わないでよね。なんか余計に恥ずかしくなる。 「いつもお前へらへらしてるから分かりにくいんだよ。いつも倒れるまで体調悪いの気付けないし。本当にきついなら、早退とかしろよ」 「あはは。ゆーいちオレのお母さんみたいだねー。体調悪い訳じゃないから大丈夫だよー。じゃあお母さん保健室で寝てくるね」 これ以上ゆーいちを心配させるわけにも行かないし、平然と笑って立ち上がった。 あっという間に保健室についてしまい、またため息が溢れた。 『……って、女か。オレは』   母国語で小さく毒づくと、まぁ、なるようになるだろうとドアに手をかけた。 「やっほーせんせー。眠りに来たよー」 さっきまで悩んでたのは笑顔に隠して努めて明るく中に入った。 「堂々とサボりに来んじゃねぇよ」 振り返ったせんせーは相変わらずの余裕の笑顔。 「成績になんの問題もないからいいのいいのー」 「そうかよ」 気を使ってくれてるのかな。告白する前と変わらない態度。 ありがたいような、がっかりしたような。  もしかして、めんどくさいからってなかったことにしようとしてる? ああ。うん。あり得る。 てか、そうに違いない。 ……それは、ちょっとやだな。 「せんせー?好きだよって言ったの覚えてる?」 パソコンの前に座ってるせんせーの背中に抱き付いてみる。 まぁ、抱き付くのは、せんせーに限らずクラスの友達やゆーいちにもよくやるけど、なんだか今は少し緊張する。  「はいはい。生徒に慕われて先生冥利につきますよ」 どうでもよさそうに笑うせんせーにムッとしてしまう。 でも、ゆっくり時間をかけて信じてもらうしかないのだろうと思う。 そのかかる時間は、せんせーの傷の大きさに比例すると思うから。 「いいもん。これから毎日アタックするから覚悟しといてねー」 「めんどくせぇ。放り出すぞ」 「きゃー」 あんまりしつこく言ってめんどくさいって思われたくないから、これくらいで笑って離れる。 ああ、うん。やっぱりオレこの人のこと好きなんだ。 今離れるのはベストなタイミングなのに、もう少しくっついていたいとか、そんなことを思ってしまう。 じゃあそれ以上が出来るのかと聞かれると、男同士でとか、気持ち悪いとしか思えないけど、せんせーにくっつくのは、安心するしドキドキもする。 振り向いてほしいなんて、思わない。 男同士とか、先生だからとかじゃなくて、こんなにも汚れたオレには、あなたは勿体ないから。 だから、いつか他人の愛情を受け入れるようになって、素敵な人と幸せになってほしい。 その未来に、オレがいないにしても、いつか、こんなやつもいたなって思ってほしい。 これから、卒業まで、毎日愛をこの人に伝えていくのだと、このとき確かに決意していた。

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