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妬み

せんせーに好きだと伝えて早二週間。 あれから毎日気持ちを伝えてるし、一日一回抱きついたりしてるけど、せんせーにはひらりひらりと上手にあしらわれていた。 一度、どうしてめんどくさいって言いながらも保健室から追い出さないのって聞いたら、また屋上とかでサボるようになって、変なことに巻き込まれたら厄介だから、だそうだ。 いくら一度そういう現場を見たからと言って、そうそう起こることじゃないってわかってるくせに、せんせーは心配性だ。 オレのことめんどくさいって思ってるくせに、優しいから突き放せないのか、相手にすらされてないのか。 半々かなぁ。 「────っと」 そんなことを考えながら階段を降りていると、くらりと視界が歪んでとっさに手すりに捕まる。 『……危なかった』 最近、一気に暑くなってきたし、バイトも連勤続きでまともに睡眠がとれてなかった。 認めたくないけど、昔から体は丈夫じゃなくてよく体調を崩していた。 特に今日はここ最近で一番よくないかもしれない。 次は古典。苦手な教科だから授業に出たいけど、一時間だけ寝よう。一時間寝て、早退するかどうか考えよう。 そう決めて、保健室に向かった。 「せんせー。ねむたーい。寝かせてー」 体調が悪いなんてカッコ悪いからいつもと同じ笑顔。 「またかよ。…………あー」 振り返ったせんせーはオレの顔を見て少し止まり、ため息をついた。 なに?と、思っていると、そのまませんせーは冷蔵庫から冷えピタを取り出した。 「ほら」 「え、わ、なにー?」 ぽいっと投げられ、なんとか取る。 「変な虚勢張らなくていいから大人しく寝てろ」 もしかして、オレが体調悪いの気付いたのかな? うそ。オレ、こんなの今まで気付かれたことない。 「あはは。本物の病人みたいなあつかいー」 「うるせぇ。寝ろ」 「はーい。ありがとー」 やっぱり、この人は人のことに聡くて暖かい。 受け取った冷えピタをおでこに貼ると、いつものベットに潜り込んだ。 目を閉じるとだんだんと重たくなっていく瞼に逆らわず、意識を手放した。 ─────── 授業の終わりを知らせるチャイムの音で目が覚めた。   だるい頭を抱えて起き上がると、外から小さな笑い声。 だれかいるのかな?と、そっとカーテンを開けると、せんせーと小柄な男子生徒がいた。 中学生くらいに幼く見えるけど、ネクタイの色が同じだから高校二年生なのだろう。 「起きたか。気分は?」 せんせーとすぐに目が合い、ドキッとする。 「うん、めっちゃ寝たから超よくなったよー」 うそ。一度寝たら余計に悪化したから、今日はこのまま早退しようと思った。 「お前さぁ………」 せんせーが呆れたようにため息をついてなにかを言おうとしたら、男の子が言葉を遮った。 「保健室のさぼり姫……?」 なんかそれ、たまに言われるんだけど。 サボってばっかいるうちにそんなコードネームがついてしまったらしい。 思わず笑ってしまう。 「あはは。姫ってー。はじめましてだよねー。オレ、リチェール・アンジェリーです」 「しってる。部活の合宿のとき、僕もいた」 「え、そうなのー?ごめんねー。あんまり部活行かないから、まだ全員の名前覚えれてなかった。名前聞いてもいいー?」 使わせてもらったシーツを畳み終わって、近くに行くと彼は無表情のまま目を会わせた。 うわ、かわいい顔。大きな黒い目に、綺麗な黒髪。身長はたぶん160もない。 男にしては少しふっくらした体型が余計に女の子のようで愛らしい。 「折山累(オリヤマ・ルイ)……」 ついでに、声までもかわいい。  「累くんよろしくねー」 「よろ、しく」 控えめに出された小さな右手を掴むと、びくっと怯えたように肩が揺れる。 右の袖から少し覗いた手首には、包帯が巻かれていた。 ああ、そういうこと。 もちろん、そんなことは気付いたことを気付かれないように笑って手を離した。 オレと握手したあと、累くんはすがるように小さくせんせーの服を握る。 怖かったかな? 今まで保健室で鉢合わせしなかったことを見ると、不登校気味なのかもしれない。   「あ、オレ、教室戻るねー。累くん何組?」 「さ、3組」 「オレ1組ー。混合授業のとき、よろしくねー」 「う、うん。え、と。リ、リチェー」 人見知りの癖に懸命に答えてくれる健気さが可愛くて、クスッと笑いがこぼれてしまう。 「オレの名前みんな言いにくいからルリって、呼ばれてるの。累くんもよかったらそう呼んでー」 「ルリ、君。いいひと……」 そんなストレートな言葉をかけられ、また笑ってしまう。 「あはは!そう思う累くんがいい人なんだよー」 「…僕、いいひと、ちがう」 震える声で言う塁くんに、なにか不味いこといってしまったのかと、すこし、焦る。 「いいひとだよー。少なくとも、隣のやくざよりもよっぽどー」 「ほー言うようになったじゃねぇか」 「いひゃいー。暴力きょうひー」 せんせーが意地悪く笑い、頬を摘まむ。 ようやく、累くんがクスクス笑ってくれた。 「なか、いいんだね」 「まぁねー。将来はせんせーはオレのお嫁さんかなー」 「俺のウエディング姿とか軽く吐けるレベルで気持ち悪いって言ってただろ」 「うん、今改めて想像してもかなり辛いものがあるねー。せんせー、二度とウエディングドレス着たいなんていっちゃダメだよー」 「俺は一言も言ってねーっつの」 今度は両頬を摘ままれる。そんなやり取りに塁くんが寂しそうに顔を伏せる。 「いいなぁ。ぼく、仲のいい人、いない」 ぽつりと呟かれた言葉に、きゅっと胸を締め付けられる。 「そんな寂しいこと言わないでよー。オレともう友達だよー?」 「ともだち……?」 「うん、友達ー。あ、そうだ。今日、お昼一緒に食べない?オレのグループみんないいひとだよー」 「や。こわい…」 いきなりは図々しかったかな。 「じゃあ、オレと二人でお昼食べよーよ。ここで」 「ここで……?」 「うん。それなら、怖くない?」 「うん……先生、いいの?」 不安そうに累くんがせんせーの服を握ると、せんせーは「好きにしろ」と、笑っていた。 今日は体調もよくないし、早退しようと思っていたけど、累くんと友達になれたしまぁいいやと、と思えた。  

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