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優しい手

千side 過呼吸になりながら、折山が保健室に入ってきた時はかなり驚いた。 いつもならこの時間は確実に帰ってるけど、具合の悪そうなアンジェリーが折山を気遣って珍しく部活に行くようなことを言っていたから、念のため残っていたのは正解だったようだ。 「大丈夫か?」 折山を抱えると、ソファに座らせ袋を当てさせた。 苦しそうに息をする折山の背中を撫でながら、ハッとする。 折山はアンジェリーと、一緒に帰るんじゃなかったのか? 嫌な予感がして、冷たいものが背中に走る。 なんで、アンジェリーが今一緒じゃないのか。 「折山、アンジェリーはどうした?」 顔を覗きこむように聞くと、折山の過呼吸はよりいっそう激しさを増した。 「はっ、はっ、はっ、はぁっ」 もうまともに息を吐くことも出来ないようだ。これでは喋ることは当分できないだろう。 俺の予感は憶測でしかない。 折山を落ち着かせることが先決だ。 そうわかってるのに、柄にもなく、ざわざわと胸がざわついて焦る気持ちばかりが募った。 「折山、息吐け」 背中を撫でると、苦しそうに前のめりに俺に体を預けてくる。 この時間に残ってる教師は俺だけだし。 生徒もほぼいないだろう。 弓道場から、ここまでの廊下で、ほとんどの使ってない部屋と言えば、地学準備室と物理準備室。 そこだけ見て戻ってこようかとも思ったけれど、この状態の折山を一人にすることなんて立場上出来るはずもない。 歯痒い気持ちのまま、折山が落ち着くのを背中を撫でながら、待つしかなかった。

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