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優しい手
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額にヒヤッと冷たいものを当てられ、ゆっくり意識が覚醒した。
オレ、いつの間に寝たんだろう。
なんだか、すごく体が重くて起き上がれない。
「………起きたか」
今日くらい学校をサボってしまおうと、天井をみながらぼーっと考えていると、横から声が聞こえた。
ゆっくり顔を動かすと、せんせーと目があった。
「………どうしてせんせーがいるのー?」
だめだ。頭が働かない。辛うじて笑えたと思うけど、頗る体調が悪くて、言葉を発するのもやっとだった。
今、どんな状況?
ここ、オレん家じゃないの?
「お前、地学準備室のこと覚えてないのか」
せんせーが顔をしかめる。
地学準備室?
最後の記憶を思い出そうと、弓道部に久しぶりに行ったところから遡る。
「あ……………」
さぁっと、血の気が引く感覚がする。
オレ、ついに学校で犯された?
いや、それよりも、累くんはちゃんと逃げ切れたのだろうか。
「思い出したか?」
そして、一番知られたくないことを一番知られたくない人に知られてしまったらしい。
ということは、累くんが呼んでくれたんだろう。
「あー、うん。喧嘩して、負けちゃったー」
まっすぐ見てくるせんせーの鋭い瞳から目をそらしたくなったけど、あんなことに屈してる姿なんて見せたくなくて笑って見せた。
「お前、いいかげん………」
「てか今、何時?今日土曜日であってるよねー?せんせーの家に泊めてもらっちゃったのかなー?ごめんねー。すぐ帰るねー」
せんせーが苛立ったように口を開いたけど、なにも聞かれたくなくて、思わず早口になってしまう。
悲鳴をあげる体を無理矢理起こし、ベットからおりた。
どうやら、服も着替えさせてくれたらしい。オレの体を上だけですっぽり包むスエットにズボンはなく、サイズが大きいからワンピースのようだった。
やだもう。ほんと最悪。ダサすぎる。
恥ずかしい。下、ズボンはもちろんパンツもはいてないとか。
せんせーに見られないように小さくため息をつく。
「………………っ!?」
くらりと視界が歪み、前に倒れそうになり目を閉じると、大きい腕が体を支えてくれていた。
見上げると、無表情のせんせー。
あーあ。
こんなにも迷惑かけて、嫌われちゃったのかも。
胸がズシっと重くなるようだった。
「泣くなよ。聞かれたくないなら今は聞かねぇから、とりあえず今は寝とけ」
そのまま、簡単に抱き抱えられ、ベットに優しく降ろされた。
こんなことくらいで泣くわけないじゃん。
そう思うのに何故か目頭が熱くなって咄嗟に顔を背ける。
「……ははっ。男が喧嘩で負けたくらいで泣くわけなくない?」
ここはありがとうと笑うべきとこなのに、顔を見られたくなくて、くるりと背中を向けてしまった。
でも、せんせーの優しさが今のオレにはどうしてか、少し痛い。
普段はやらないくせに、こんなときに限って後ろから頭を撫でてくるから、余計に込み上げた涙に、声を押し殺した。
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