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優しい手
オレが泣き止むまで、せんせーは一度も顔を覗こうともせず、ずっと頭を撫でていてくれた。
恥ずかしくてどのタイミングで振り替えったらいいのかわからないでいると、それすら察したように立ち上がって、寝室から出ていってくれた。
ひとつひとつの気遣いに優しさが溢れてる。
オレはこんなの慣れてるから、ほっといてほしかった。
せんせーはそんなオレの気持ちを汲んでくれるように、一定の距離を保ってくれつつも、優しさから放してくれない。
布団に潜り込んで、どうしよう。と、考えていると、ガバッと布団をめくられた。
「な………っ」
驚くオレをいつものように意地悪な笑顔でせんせーが見下ろしていた。
「いつまでいじけてんだ。ほら、牛乳温めてやったから、飲め」
『………っいきなり捲らないでよ!』
恥ずかしさから咄嗟に英語で話してしまうと、頭をくしゃくしゃ撫でられた。
『なら自分から出てこい。変な気とか遣うな』
ああ、そうだった。この人英語ペラペラだ。
そして悔しいことにオレの何枚も上手だ。
オレの気まずい気持ちもわかっての行動だってわかるから、なにも言えず素直にホットミルクを受け取った。
「………いただきます」
「飲み終わったら熱計れよ。なんか食えそうか?」
いつになく面倒見のいいせんせーにふと、笑いがこぼれる。
「せんせー随分やさしいねー。もしかしてオレのためにご飯つくってくれよーとかしてるの?」
「あほか。出して冷凍のうどんだわ」
「あはは。ついにオレのこと好きになってくれちゃったー?」
「ねぇよ」
やっと笑えて、ようやくオレも調子が戻ってきた。
わかってるよ。この人にはもっと素敵な人があってる。
「うん。オレはせんせーがオレをどう思っててもせんせーのこと大好きだからねー」
「そうかよ」
適当に返事をしながらせんせーはタバコに火をつけた。
「オレ、タバコの煙とか本当は嫌いなんだけどねー。せんせーの匂いは安心するー」
「吸うなよ」
「ふふ。せんせーがそれ言う?」
こんな他愛のないやり取りでじんわり心が暖かくなる。
ホットミルクの、冷えきっていた体を内から優しく解してくれるような、優しい味にほっと息をついた。
オレ、本当にこの人のこと好きだなぁって今更ながらに改めて思う。
付き合えないことがわかっているから、どうしても胸は痛むけど。
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