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優しい手
せんせーがオレを助けてくれたということは、きっと累くんが知らせてくれたわけで。
ということは、無事だったのだろうと、ようやく頭が働きだした。
せんせーに累くんは大丈夫だった?とかなんとなく聞けない。
なんだか、遠回しに累くんのせいにしたような言葉にも感じるから。
自分で考えてわかることは人にいちいち聞かない。
でも、誰かに累くんは大丈夫だったよって言ってオレを安心させてほしい。
胸がもやもや、すかすか、ズキズキ。
なんだか重たい不安がずっとあるような感覚が拭えない。
今日は、なんだか弱っていて思考回路もだめだ。
自分でも情緒不安定だと思う。
このホットミルク飲み終わったら帰ろう。これ以上迷惑はかけれないし。
「情緒不安定だな。さっきまで笑ってたのに、もう色々考えてんだろ」
まさに今思っていたことを言われ、「えー?」と惚けて顔をあげる。
絶対今はオレは顔に出てなかった。
この人本当に人の感情に敏感だなと思う。
「なにがー?」
笑って首をかしげると、せんせーは短くため息をついた。
「色々あって疲れただろ。食欲ねぇなら飯はもういいからソレ飲んだら薬のんでもう少し寝てろ」
風邪薬を渡され、思わず苦笑してしまう。
「せんせー、オレ今度こそ本当にもう帰るよー」
そう言うと、面倒そうにせんせーが顔をしかめる。
養護教諭の立場的に、学校で厄介事に巻き込まれた上に熱でフラフラの生徒をそのままにはできないのだろう。
「大丈夫だよ。めんどくせーことにはならないから」
せんせーの口調を真似てみる。
とにかく今はもうほっといてほしい。
この人の側は居心地がよすぎて、距離感が掴めなくなるから。
「オレはね、せんせーのこと好きだしそばにいたいけど、迷惑かけたい訳じゃないし、自分のことは自分で解決できるから」
そう言いきると、今度こそしっかり起き上がって、ベットからおりた。
「ホットミルク、ご馳走さま」
そう言って、マグカップを洗おうとドアに向かうとぐいっと手を引かれた。
「えっ」
スカイブルーの瞳と、まっすぐ目が合う。
「俺が、寝てろって命令してんだよ。何度も言わせんな」
威圧的な声に、チリッと電気が走る。
「…………な…………」
ズルい。自分の顔が反則的にかっこいいのわかってる。
その顔をあまり近づけないで欲しい。
「ふ。お前、なに。顔真っ赤なんだけど」
『赤くない!』
『なんでこのタイミングで照れんだよ。性癖どうなってんだ』
『照れてない!』
日本語に置き換える余裕すらなくて、強めの口調で言い返しても、気にした様子もなく、せんせーは楽しそうに笑うだけ。
さっきの真剣な表情はなんなの。
「とにかく、寝てろ。まだ39度くらい今熱あるぞ」
「めんどくさいって思ってるくせに~」
くくっと喉で笑いながらせんせーがオレの額に手を当てる。
恥ずかしくて、つい目をそらしてしまった。
「仕事ですから。ほら、いい加減寝ろ。押し倒すぞ」
「それはお仕事熱心ですねー。もう本当に寝ちゃうからねー?せんせーのベット占領しちゃうからねー」
「はいはい。お利口にベット入れて偉いですねー。ご褒美にお薬口移しであげてやろうか?」
『自分で飲めるよ!』
乱暴にせんせーの手から薬をとると、くっくっと笑いながらペットボトルに入ったミネラルウォータも手渡された。
ああ、もう。やっぱりこの人の方が何枚も、何十枚も上手だなって、目の前の意地悪な笑いを見て思う。
ほんと、顔がこんなに熱く感じるのも、動悸が苦しいのも熱のせいなんだと思いたい。
なんかこんなのできゅんとしちゃうなんて、変態みたい。
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