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小さな体
千side
ようやく眠ったアンジェリーは、辛そうにハァハァと荒い呼吸を繰り返していた。
元気そうに笑っていたから、安心していたが、どうやらこいつは意識があると気丈に振る舞ってしまうらしい。
さっき熱をはかろうと、あいつの頭に手を伸ばしたとき、ビクッと肩がゆれていて、瞳には恐怖の色が映っていた。
それから、すぐに笑ってたけど。
起きてすぐ、昨日のことを思い出して真っ青な顔をしていたけど、その時だって一瞬で感情を笑顔の下に隠した。
17歳がやることかよ。
本当に、どうしていいのかわからない。
好きだという割りに、頼ってこない。
大抵のやつは、困ったことがあるとすぐ弱々しく泣いてすがってくる。
それが可愛いとでも思っているのか、ただめんどくさいと思うだけだというのに。
大体の内容が考えりゃ自分で解決できるだろ、と思う。
トラウマがあるの、あなただけが唯一特別なのとか言い寄ってくる女も多かった。
本当に、愛やら恋やら、馬鹿馬鹿しいと思う。
そういうやつは冷たく突き放すと、大概強かだ。
だから俺は女なんて懲り懲りだし、だからといって男なんて論外だけど。
ふと、ベットに眠る小さなやつの頭を撫でてみる。
ふわふわと、柔らかい髪。
熱は、まだ高い。早く解熱剤が効いたらいいのに。
「まつげ、長ぇな…」
色素の薄いまつげの下は、少し赤く腫れていた。
さっき、背を向けられた時やっぱり泣いていたのだろう。
どうして頼らないのかと思う。
どう考えても17歳のガキが抱えられる問題じゃない。
イギリスから戻った時の傷もまだ癒えてなく、着替えさせた時に見えた細い体には、所々痛々しい傷が残ってた。
こいつの家庭環境がどうなっているのか知らないけど、関係あるんだろう。
"せんせー、好きだよー"
柔らかく笑いながら、そう言って引っ付いてくることを、本気にとらえたことはなかった。
だから、適当にあしらってきたし、アンジェリーだって傷付いた様子はなかった。
へらへらと軽く笑って、フラフラした体を引きずって出ていこうとするから、少し乱暴に引き留めた。
職業上、ほっとくわけにはいかない。
それだけだった。
だから、出ていこうとするアンジェリーを、逆にめんどくさいとすら思ったのに。
手をつかんで、引き寄せただけで、真っ赤になって日本語を喋る余裕を無くすほど焦るなんて。
不覚にも、可愛いと思ってしまった。
普段は語尾を伸ばして柔らかい言葉を喋る姿に、人懐っこい犬のようなやつだと思っていたけど、意外と猫タイプのやつだと思った。
気まぐれに引っ付いてくるわりに、全然頼らないし、なついたふりして、距離を置かれている。
こいつが俺のことを本当に好きだろうと、そうじゃなかろうと関係ないし、応えてやれないけど。
せめて、もう少し頼ってほしいだとか、俺らしくないことを思ってしまうのはこいつが生徒だから。
……それだけだ。
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