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小さな体

────────── 『………めて、…………おとうさん、やめて………っ』 眠りについてわずか一時間で、苦しそうにうなされ出した。 こう言うのは、起こさない方がいい。 単純に休息を妨げてはいけないから。 そうわかっているのに、普段はへらへらしてるアンジェリーが、こんなにも苦しそうな声を出すから、思わず手を伸ばした。 「おい、起きろ」 触れると、びくっと怯えたようにすぐに目を覚ました。 「あ………っ」 いきなり寝起きで起き上がったから立ちくらみを起こしたのだろう、ふらりと前にのめり込むのを、咄嗟に支えた。 不安そうに俺を見上げて、少し目を見開く、それから辺りを見回して納得したように笑った。 「…せんせーおはよー。オレいつの間にか寝てたねぇ」 「飯、出来たから食え」 本当は30分前から出来ていたお粥。 起きたらやろうと思っていたけど、うなされてたから起こした、なんて言ってもこいつを追い詰めるだけだろう。 「ふふ。せんせー本当にオレのためにご飯つくってくれたのー?」 口元を袖で隠して、小さく笑う顔は、普通に綺麗だな、と思う。 正直、男に狙われるのも頷ける。 「食べれそうか?」 「うん。お腹すいたー。嬉しいー」 あんなに苦しそうにうなされて、起きてすぐにこれだけ柔らかく笑えるこいつは、どこか壊れてるんじゃないか思うほどだった。 「温め直してくるから、水飲んどけよ」 「あ、それくらいオレやるよー」 あぁ、もう、こいつは。 正直こーゆーところは少しイラっとしてしまう。 「………っわ」 起き上がろうとしたアンジェリーをベットに押し倒す。    一瞬、恐怖の色を見せたが、目に俺をしっかり映すと、顔を真っ赤にさせる。 「なっな、な、なに…………っ」 「寝てろって何回言わすんだよ。お前は。次起き上がろうとしたら同じように押し倒すからな」 「わ、わかったから!わかったから離れて!」 なにこいつ。普段は自分から抱き付いてきたりもするくせに。 焦りすぎだろ。 こーゆーところが、男のイタズラ心をくすぐるってわかんねーのかな。 「はぁ?なんで俺が命令されなきゃなんねぇの?」 ぐっと顔を近づけると、今にも泣きそうな顔で必死に俺の肩を押し戻そうとする。 「も……っお願い…言うこと聞くから……っ」 それで抵抗してるつもりなのかと言いたくなるほど弱い力。 これ以上体が弱ってるところをいじめるのは可哀想に思えて、ぽんと頭を撫でると離れてやった。 「お利口さん」 「も、いじわる!きらい!……うそ!すき!ばか!」 どっちだよ、それは。 普段の姿からはあり得ないほど、焦ってる表情で早口にそう言うとアンジェリーは布団に潜った。 思わず、笑ってしまった口元を押さえながら、キッチンに向かった。 あんな姿を見たから、同情心でも芽生えてしまったのか。 出来ていたお粥を少し器によそうとレンジにいれた。 IHで鍋ごと温めてもよかったけど、たぶんあいつそんなに量は食えねぇだろうし。 普段から食は細いし、昼飯と言えば、見かけるときほとんどが栄養ゼリーか、カロリーメイトだ。 食べるのがめんどくさいとか、胃もたれしやすいからとか、言っていた気がする。 チン、とレンジがなり、中身を取り出した。 俺の食べる量のおよそ半分。 俺も、男にしてはそんなに食べる方じゃないけど、たったこれだけの量ですら、あいつは食べきるか怪しいと思う。 今日は薬も飲ませてるし、食べれるだけでも頑張ってもらおうと、お盆に乗せて寝室に向かった。 「あ、持ってきてくれたの?オレ、イスに座って食べれるよー?」 お粥が出来たら、呼ばれると思っていたのだろう、アンジェリーはベットの掛け布団を綺麗に畳んで枕カバーを取ろうとしていた。 「お前さぁ、寝てろって何回言えばわかんだよ。英語で言わねぇとわかんねぇの?」 小さな鼻をぎゅっと摘まむと、「う」と間抜けな声を漏らす。 それから、また困ったように笑った。 「いや、でも………風邪引いたとき、どうしてもらうのが普通か、わかんなくてー」 「あほか。風邪の時なんて、食って薬のんで寝る以外なにもしなくていんだよ」 わしゃわしゃと頭を撫でると、さらさらと細い髪の触り心地がいい。結構こいつの頭撫でるの好きかも。 「えへへ」 すりっと撫でていた手にアンジェリーが自分から擦り寄ってきて頬を染めて笑う。 「せんせーの手、すき。きもちいー」 そーゆーこと言われると、やりづらいんだけど。 「ほら。温めてきたから、さっさと食って寝ろ」 「はーい」 ぱっと手を離すと、アンジェリーは素直に頷き俺が片手に持っていたお粥を両手で受け取って、ベットサイドにあったイスに躊躇いがちにちょこんと座った。 「えと、いただきます」 「はい、どーぞ」 両手できちんと手を合わせ、スプーンで少量をすくって、少し息を吹いて冷ますと口に運んでいた。 お粥なんて、誰が作っても味は変わらない。 そもそも、薬で胃が荒れないための言わばオブラートのようなもののつもりで作ったお粥なのに、アンジェリーは嬉しそうに笑う。 「食べやすくて、おいしいー」 「ああ、そう」 短く返事を返し、タバコに火をつける。 食欲はなくはないようだ、と内心少し安心した。

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