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俺のもの
ソファで頭を抱えてると、ヴヴヴと何かが振動した。
累くんからの返信かと思ったけど、オレのケータイではない。
顔をあげると、テーブルの隅に置かれた見覚えのあるケータイだった。
「これ………」
ぞくっと全身が栗立つ。
このケータイは、昨日、あの最悪な瞬間をとらえていたものだ。
せんせーが普段使ってるものは機種も違うし、カバーや傷までもが同じで間違いないものだった。
手にとって、確認しようとすると力が入らず床に落ちた。
…………情けない。
足元に転がったそれをみて、思わず苦笑が込み上げる。あれくらいのことがなんだよ。今どきテレビをつければもっと残忍なニュースが流れるし、オレに起こったことなんて大したことないだろ。
あんなことで、オレはいちいち傷付かないし、これ以上厄介なことにならないようにするだけだ。
ケータイを拾い、電源ボタンを押すとロック画面が出た。
不用心にもロックはしていなかったらしく、横にスライドするだけで簡単にホーム画面に変わる。
万が一にも落として誰かに見られたらどうしてくれるんだ。
まぁ、今だけはその不用心さがありがたいけど。
無心でフォルダを探しだし、それらしい動画を簡単に発見した。
息が、くるしい。
どくんどくんと、気が遠くなるほどうるさく心臓が早鐘を打つ。
冷や汗が頬を伝って、目がくらくらしてくる。
熱がぶり返したのかな、なんてどこか冷静に思う。
そんなこと言ってられない。
きっとせんせーは事情をすべて知っている。
これがここにあると言うことは、せんせーがあいつらから奪ってくれたんだろう。
せんせーのことだから、きっと中は見てない。見ないでいてくれてるはずだ。
早く、この問題を一つ一つ処理して、早く、累くんに安心を。
「なーにやってんだ、チビ」
意思が飛びそうな緊張感の中、突然目の前が真っ暗になり、一晩中安心感を与えてくれたあの香りに包まれた。
ついに意識が飛んだのかと一瞬思ったけど、暖かい。
顔をあげると、お風呂上がりのせんせーが髪から水をポタポタ滴ながら後ろからオレの目を覆っていた。
リビングに入ってきたのさえ気付かなかった。
「せ……んせ………」
「なにその顔」
目が合うとせんせーは、大袈裟にため息をつく。
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