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俺のもの
「お前熱あるくせに手冷たすぎだろ」
せんせーは柔く微笑んでオレのケータイを握る手を優しく包んだ。
お風呂上がりのせんせーの手は暖かくて、指先がじんと暖まっていく。
「お風呂上がるの早いねー」
なんだかいけないことをしてるところを見つかったようでびっくりしたけど、平常心を装って笑って首をかしげると、せんせーは僅かに眉を潜めた。
「笑うことでしか自分を保てないのか、お前は」
「うひゃっ!?」
頬っぺたを捕まれ変な声が漏れる。
見上げたせんせーの表情はいつになく真面目な顔で、まっすぐオレを見下ろしていた。
「俺のこと好きなんだろ。なら変に取り繕うな。こーゆー時くらい頼ってろ」
そんなこと言うのズルい。
オレの気持ちに応える気なんてないくせに。
めんどくさいって思ってるくせに。
愛だの恋だの馬鹿らしいって笑ってたくせに。
真剣な表情で言われて、言葉に詰まる。
頬から手を離して、せんせーはふっと穏やかに笑いオレの頭をくしゃくしゃ撫でた。
まるで、頼っていいんだと優しく手招くように大きな手はオレを甘やかす。
本当に、これくらいのこと何ともないのに。
傷付いてもないし、ちょっとめんどくさいなって思うくらいの出来事なのに。
そんなオレの想いとは裏腹に目頭が熱くなる。
ついさっき、しっかりしなければと決意をしたばかりなのに、この人はこんなにも容易くそれを壊すんだ。
だめ。そんな弱い奴になんて、なりたくない。
「せんせーは、勘違いしてるんだよー」
こぼれそうになった涙をぐっとこらえて、もう一度笑って見せる。
「オレはさー、そんなキレイなやつじゃないよー。なんなら男とするのも初めてじゃないし、………っていうか、定期的に今でもやってるしー。あんなことで一々傷付いたりしないよー」
せんせーの目が微かに見開く。
ああ、軽蔑されたかな。昨日そんな奴の体洗ってやったんだって気持ち悪く思われたりするのかな。
もしかしたら、もう今までみたいに気さくに喋ってさえくれないかもしれない。
でも、それでいい。弱いところを見せて、甘えて、そしていつかせんせーが離れていったとき一人でたってられなくなりそうで怖い。
それなら、まだ強がれるうちに距離を置きたい。
なにも言わないせんせーに言葉を続けた。
「オレは、ズルい奴だよ。ヤってる相手も自分の父親だしさー。…あ、もちろん無理矢理とかそんなんじゃないよー?合意の上だし、父親のことすっごいキライだけど、そんな相手とも自分の利益のためにできちゃうしー」
オレは、なんてわがままなんだろう。
こんなこといいながらも、それでもこの人の手にすがり付きたくなる。
こんなに優しい人に、オレみたいな汚い奴が救ってもらっていいはずないのに。
「嫌いな奴に抱かれるのも、多少乱暴にされるのも、なんとも思わないんだよー。だから、大丈夫」
せんせーのなにも言わずまっすぐ見つめる瞳から目をそらしたくなる。
それでもそらしたら、強がってるみたいだと思われそうで笑顔を見せた。
「……でもね、せんせーを大好きだって気持ちは本当だよ。せんせーは優しいから分からないかもしれないけど、オレってこんなやつだよ。今回のことで一番傷付いたのは累くんだよ。オレはなんともないから累くんのこと、ちゃんとケアしてあげてね」
やっと最後の一言だけは本当の言葉が言えて、息をついた。
ずきんと今更胸が痛んだ気がした。
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