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俺のもの
頭を心地いい手のひらで撫でられてると、顔が見たくなり、涙も止まらないうちからそっと見上げてみた。
「始めっからそうやって素直に泣けばよかったんだよ。ばか」
目があったせんせーは穏やかに笑いオレの目元を拭った。
「せんせ………すき………」
ほぼ無意識にでた言葉だった。
好きだと言葉にするだけで胸がぎゅうっと苦しくて、感情が込み上げる。
「知ってる」
せんせーは、ふっと笑う。
今までは、どうでも良さそうに、軽くあしらわれてた言葉に初めて温度のある返事が帰ってきたようで、オレの心に暖かく響いた。
「なら、お前は俺のもんだろ。厄介なこと隠すな」
好きだと言った言葉に答えはくれないくせに、俺のものだなんて、なんて横暴な台詞だと、普通は思うはずなのに。
その台詞が、まるで守ってやると、言ってるようで、気がつけば素直に頷いていた。
「オレ、せんせーのになっていいの?」
「そう言ってるだろ。だから隠すな」
「うん……」
好きだといってもらったわけでも、付き合ってもらえるわけでもない。
そんなこと、オレだって望んでない。
でも、この人のものだと言われるだけで今までの、ずっと胸の中にあったなんとも言えない重い不安がすっとなくなっていくようだった。
どんどんこの人を好きになっていく。
もう堕ちていくことに抵抗することすらできないくらい、深く、深く。
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