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俺のもの

千side だれかに頼られることも、言い寄られることも、関わることすらめんどくさかった。 好きだと言われれば流してきたし、本気だと言われれば突き放してきた。 好きなやつに、弱い部分を見せ頼るのは一種の戦法だと思う。 アンジェリーに起きたことは、その面倒な厄介事に入ると思う。 けど、今は頼ろうとしないことにイライラした。 だから、初めて素直に泣き顔を見せたこの小さい生き物には混乱ばかりさせられる。 好きだと言う割りに、俺には触られたくないだの、自分は汚いやつだから傷付いてすらいないだの。他のやつを気にしてやれだの。 なんかとんでもない家庭事情ぶっ混んできたと思ったらそれすら俺と距離を置くためのことで、なにがこいつをこんなにも自己犠牲の考えにさせたか分からないけど、まぁもうこいつに自分から甘えさせるのは諦めた。 だから抵抗するアンジェリーを、こちらへと抱き寄せてみると、こんなにもか細い体で立ってられたのかってくらいに、ふっと力が抜けようやく俺に身を預けた。 「この携帯の中身だが、俺のパソコンにデータ送ってから消す。嫌かもしれないけど証拠は残しておくべきだ」 少し落ち着いたところで話を切り出すと、ソファで俺の膝に小さく乗るアンジェリーは苦笑して顔をあげた。 「中見たのー?ごめんね、嫌なことさせちゃったねぇ」 ああ、もうほんと。こいつ、多分どんだけ甘やかしてやっても直らないわ。 思わず大きくため息をつく。 俺にこそ見られたくなかった内容だろ。 こいつの性格を考えると尚更。 それなのに、何かってに見てんだって怒るわけでもなく、さらりと謝る。 こいつが人に不快感を与えることってあるんだろうかと思うくらいの、言葉も雰囲気も痛々しいくらい柔らかい。 その他者への気遣いを一割でも自分に向ければいいのに。 「とにかく、あの四人には俺が話つけるから、お前はもう関わるな」 「えっ、そんなの申し訳ないよ。オレ自分で解決できるし」 俺の膝に横向きに座るアンジェリーが降りようとするから、片手でもう一度胸の中におさめた。 「言うこと聞いてろ」 さらりと柔らかい髪を無意識で撫でると、アンジェリーが、頬を真っ赤にさせた。 「そんな俺様チックなこと言ってさー。せんせーが面倒事全部引き受けてるだけじゃん」 「こーゆーことは大人に頼るもんなんだよ」 そう伝えると、アンジェリーはどうしていいのかわからないと言ったような戸惑った表情を隠すような俯いた。 それから、不安げに伏せられた目をあげる。 「………ありがとう?」 謝ってばかりだった言葉が、お礼に代わり、正解だと伝える代わりに頭を撫でると、不安そうだった表情がへにゃっと力を抜く。 そうやって素直に甘えられるようになればいい。

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