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俺のもの
平気そうにしてるけど、やっぱりアンジェリーの体は普段の低体温からと比べればかなり熱く、まだ体はきついだろう。
まぁあんな高熱が一晩で治るはずないんだけど。
体がきついのも、精神的にきついのもおくびにも出さないやつだから、せめて心配事くらい早く解決してやりたくて、事用の携帯を取り出した。
アドレス帳には、他の教師の番号と何人かのちょっと問題のある生徒の家の番号。
その中から折山の家の番号を出して耳に当てた。
アンジェリーが不安そうな顔をして俺を見上げているから、ぽんと頭を軽く撫でてやる。
「───はい、折山です」
3コールもしないうちに、何度か話したことがある折山の母親が電話にでた。
「いつもお世話になっております。私、南和高等学校の月城です。折山君はご在宅でしょうか?」
「ああ、先生。いつもありがとうございます。すぐ息子と変わりますね」
保留音が鳴り出し、十秒もしないうちにプツと、繋がる音が聞こえた。
「月城先生………?」
「昨日は送ってやれなくて悪かったな。大丈夫だったか?」
「だ、大丈夫です……。安定剤飲んだら、落ち着いたから…」
不安げに沈んだ折山の声から察するに、精神的に大丈夫ではなかったらしい。
そりゃそうだろう。
やっと少しずつ学校に来始めたばかりでこれだったんだから。
「昨日は寝れたか?」
「一睡も、できなかった………ごはんも食べれないよ…………もう、学校行くの、辛いよ………先生……」
消え入りそうな泣き声で途切れ途切れいう折山は弱々しく、この分だと、本当に一ヶ月くらい学校に来なさそうだ。
「食欲なくてもなんか食えよ。アンジェリーはちゃんと逃げて、熱で倒れてただけだからなんともなかったし、お前のこと心配してたぞ。あいつらのことはもう俺が話付けといたから」
これでいいんだろ?と、アンジェリーを横目で見ると、こくこくと頷いていた。
何もなかったと言うことにしたいんだもんな、お前は。
「あ、あいつら…………もう、僕に近づいてこない………?」
「来ないだろ。俺が脅したんだし。何かあったら守ってやるから俺に言え」
声が穏やかに聞こえるように心がけて言うと、受話器からほっと息をつく声が聞こえる。
「せんせーにそう言われると………安心する…………頑張って学校行くね……保健室に引きこもっちゃうかもしれないけど………」
「ああ、それでいい。十分偉いよ」
余程怖かったのか、緊張が抜けたようにグスグスとなく声が聞こえる。
またしばらく折山の家にも通ってケアしよう。
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