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俺のもの
「オレの両親はさぁ、ダブル不倫しててね。なんで別れないのかなーって昔は思ってたけど、母親は弁護士で父親は大学の教授でね。まぁまぁの職業だから世間体もあるんだと思う」
ようやく素直に話始めたから体を放してやると、アンジェリーもゆっくり起き上がって話を続けた。
「母親は完全に冷めきってて、仮面夫婦さえ続けたらそれでいいって感じで、浮気に相手の家に通ってるみたいだから家にいる時間さえも少なかった。父親は多分浮気相手は複数いるんだとも思う。でもこの父親が厄介でねー」
ため息をつきなが、呆れたように笑う。
その笑った顔が冷たく傷ついてるように見えて、肩を寄せて俺にもたれさせた。
「小学生の時に、家に帰ったらなんか父親の様子がおかしくて、まぁ元々両親が家にいることすら少なかったし、今なら無視するんだけど、そのときのオレバカだから、どうしたの、大丈夫?って近寄っちゃったんだよね。そしたら殴られてさ、思いっきり」
やはり、このシーンを聞くと、心中穏やかにはいられない。
イライラする。
アンジェリーは、一呼吸おいて話を続けた。
「その時に、エリシアって呼ばれながら何回も気を失うまで犯されたよ。エリシアってうちの母親の名前なんだけど、親父は浮気相手も好きだけど、母親も好きだったみたい。でも、だれかの手に触られた母親は汚いんだって前いってた。だから顔が細胞分裂レベルに似てるオレでいいやってなったんだってー」
辛いシーンほど笑って茶化すのは、もうくせなのだろう。全然笑えねぇっつの。
俺が何も言わないから、怒ってると思ったのか、少し焦ったようににこにこと話を続ける。
「まぁでもさー、よくある話だよねー。みんな人に言えないことのひとつやふたつ持ってるものだし。母親もさー、オレが初めてヤられるとこ見たくせに助けてくれないんだよー。どうでもいいんだろうねー。てか、もう何年もリチェールって名前呼ばれてないし、オレ自身家族だとか思ってないからどうでもいいんだけどね」
「よくないだろ。この間のGWも、父親に犯されたのか」
「そうだよー。犯されに帰ってたの。オレね、向こうで愛情を貰えるのって、ゆーいちの家でだけだったから。ほんと、ゆーいち達さえいてくれたら、あんなの何ともなかったんだよねー。だから、ゆーいち達が日本に帰るって言われたとき、もうなにもかも耐えられないなって思ったんだよね」
耐えられないと言った言葉がまるで自殺を指してるようで胸を締め付けられる。
「絶対に日本に来たくてさ、母親と父親を呼び出してね、日本にいかせてくれなかったら、二人のやってること周り言ってやるって脅したの。未成年のオレ一人じゃ外国になんていけないし、両親が捕まって施設に入ってもやっぱりもうゆーいちには会えないもんね。オレも必死だったよー。
親は大反対だったしね。父親はお前まで僕を裏切るのかーってその日は死ぬんじゃないかってくらい乱暴にされたし、母親も面倒なこと言わないでみたいな態度だったけど、あれだけ世間体を気にする二人だからオレが本当にこのことをばらしてやるってことがわかったのか、定期的に帰国するって条件付きで日本に来たから、日本にいるためには、定期的に親父とエッチしに帰らなきゃいけないの。
……………それくらい何ともないくらい、ゆーいちの家族がオレの心の支えだったから」
ああ、こいつは本当にバカだ。
話を聞き終わって新しいタバコに火をつける。
こいつは、不幸じゃなきゃ幸せになれない環境に馴染みすぎてるんだ。そんな駆け引きの上でないと自分の唯一の生き甲斐とさえ一緒にいれないと、思い込んでる。
自分の無力さはわかってるくせに、弱さには気付けてないなんて、どんだけ器用貧乏なんだよ。
「……せんせー、お願い。このことは、ゆーいちだけには言わないで」
さっきまでのヘラヘラとした顔とは打って変わって、懇願するように俺の服を震えた手で掴む。
「ゆーいちに知られたら、オレ………生きていけない」
初めて話したせいで情緒不安定になってるのか、真っ青な顔はどこか血走った目をしている。
「………言うわけねぇだろ」
思ったよりも低い声が出てしまった。
沈黙が重く続く。
「せんせー、怒ってる?ごめんね。オレ、気持ち悪いよね……」
「怒ってるよ。自分を気持ち悪いって言ったことに関しては」
母親が他の男と繋がって汚いからと、アンジェリーにストレスをぶつけ代用品にした。
そんな環境にいたから、そーゆー言葉になるんだろう。
ああ、イライラする。
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