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俺のもの

リチェールside オレの面白くもない話を聞き終わったせんせーは無表情で何を考えているかわからない。 タバコの火を黒い灰皿に揉み消したから今から何か言うんだろうなって身構えてしまう。 そして、優しいこの人のことだから、何となく言うことは想像ついてしまい、思わず自分から口を開いた。 「ねぇ、せんせー、違うならいいんだけどね。まさかこの事も何とかしてやるから父親ともう会うなとか、言わないでねー?」 「あ?」 あ?って。 やっぱりそう言おうとしてたのか、機嫌がめちゃくちゃ悪い。 はぐらかすように、つい癖で笑ってしまった。 「せんせーの優しさは他で使うべきだよー。さっきも言ったように合意の上だし、昔から日常的にされたことに今更なんとも思わない。それにちゃんとメリットがあってしてることだし。 むしろ今はたまにある連休でしかしなくていいんだから、幸せなくらいだしー」 そう、オレは昔からこうだった。 今さらそれが不幸だなんて思わない。 昨日のことは、少し厄介だなと思ったけど、傷付いてなんかない。 だから、これ以上甘やかさないてほしかった。 大丈夫だったことが、そうじゃなくなることの方が怖い。 「オレってそういうやつだよー」 何も言わないからせんせーの表情は長い前髪が差し掛かってよく見えず、何を考えているかわからない。 茶化して笑って見せても、重たい空気が続いた。 「自分は汚いって泣いてたくせに………」 ぼそっとせんせーが舌打ち混じりに呟いたと思ったら、視界が暗転した。 「……………っ」 背中に柔らかい衝撃と、被さるようにオレの腕をつかむせんせー。 ソファに押し倒されたんだと理解するよりも先に、昨日のことを思い出して一瞬ゾッと背筋が凍る。  「どうした?」 薄く笑うせんせーが、いつになく冷たく見えて、息を飲んだ。 「ど…うしたじゃないよ。いきなりなにー?顔怖いよー?」 笑ってみても、情けなく声が震えてしまい頭が真っ白になる。 「男とするくらいなんともねぇんだろ」 せんせーは一言、そう吐き捨てて、オレの首筋に唇を落とした。 「っ………はは、せんせー冗談キツいってー」 柔らかい唇の感触にびくっと体がこわばってしまい、必死に押し返そうとしたけど、いつのまにか震えていた手じゃあまりに弱い。 「怖いって言えよ」 「ん……っ」 いつの間にボタンを外したのか、せんせーの舌が肌を這い、体がゾクゾクと疼く。 なにこれ。昨日の、シャワーもそうだけど、せんせーに触られるの、変。 こんなの、知らない。 「せ、せんせーになら、なにされても、こわくないよ………。でも、やだ…」 いやだった。 こんな汚い体をせんせーに触られることが。 「なにが、いやだって?」 「あ………っ」 舌が、胸の敏感なとこを吸い上げて、びくっと体が跳ねてしまった。 声を押さえようにも、腕は両方ともせんせーの左手に拘束されてて、口に当てられない。 どうして?さっきまであんなに優しかったのに、なんでこんなにいきなり冷たくなるの? 「お前が望んだ扱いだろ。リチェール」 初めてせんせーに名前を呼ばれて、視線が交わった。 涙が滲んでぼやけた視界の中、せんせーがまっすぐオレを見ている。

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