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臨海学校
「すごい。ほんとルリってやらせたらなんでもできちゃうよね」
「いやいやー、シンヤの教え方が上手なんだよー」
それから割りとすぐにその場で少しの間なら浮き輪なしでも浮けるようになっていた。
とは言え、いくら水の中にいても強い日差しの下に長時間いて頭がフラフラしてきた。
体力バカの三人は、先程の競争がほぼ同着だったのが気に入らないらしく第2ラウンドを始めていた。
「シンヤー。そろそろ一回休憩しない?喉乾いちゃったー」
「うん?いいよ。じゃー最後は浮き輪なしで戻ろうか?俺に捕まっていいから」
「エー」
シンヤに浮き輪をとられ、すぐにその場で垂直に足を動かす。
こうしたら、その場で浮いていられるけどやはり不安定な居場所にぞわっとする。
やっぱり浮き輪をつけさせてもらおうとしたとき。
「ねぇ、あれ溺れてない?」
シンヤの目がなにかをとらえた。
その方向に目を向けると、たしかに少し離れた所でバタバタと波が上がり、人がもがいていた。
浜辺からは一人の男性がその人に向かって泳いでいってるけど、あまりに遠い。
「ごめん、ルリ!俺行くね!」
「う、うん。行って!!浮き輪も持ってって!シンヤは溺れないでね!」
シンヤは頷いて浮き輪を手にあの競争してる三人よりも圧倒的な早さで離れていった。
そして、もう一人浜辺から溺れた人に向かっていた男性は見間違うはずもなくせんせーだった。
溺れた人を助けるのはプロでも危険だって言う。
心臓をぎゅっと捕まれた気持ちになる。
とはいえ、オレにできることなんてわけだし、とにかく落ち着いて、自分の力で浜辺に戻らないと。
ぶるっと体が震えたけれど、深呼吸をして浜辺を見た。
波のせいなのか。さっきより遠く感じて、どくんどくんと心臓が早さを増す。
今、この下に向けてるばた足を進みたい方向に蹴ればいいんだという知識くらいはある。
でも、それで、息は?
オレは浮くことしかできない。
「…………っぅぷ」
たまに口にかかる波に、余計に焦りが増す。
とにかく、動かなきゃと手も足も動かすのに、どんどん体が沈んでいく。
………………怖い、かも。
ついに海水を飲み込んでしまって噎せる。喉がいたくて、くるしい。
息が、したい。
でも、溺れてる人がいるのに、オレが騒ぐわけには。
ついに途切れ途切れ出ていた口も、頭ごと海の上に出せなくなって、ゾクッと体が震えた。
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