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臨海学校
オレに貸してくれたTシャツとは別にシャツを持ってきていたみたいで、せんせーは白いシャツを羽織っていた。
今オレを乗せる広い背中についた無数の傷はやっぱりあまり人に見られたくないものなのだろう。
それをたかが日焼けのためにオレに着せるなんて、この人は優しすぎると思う。
「お前最近来ないけど。大丈夫なのか色々と」
ゆっくりと浜辺に向かいながら、静かにせんせーが口を開いた。
こうやって落ち着いて会話をすることすら、もう懐かしい。
「うん。あのことは本当にありがとうねー。あれから累くん大丈夫だった?」
「お前のことを聞いてんだよ」
「オレは大丈夫だよー。最近ちょっと授業遅れ気味でさー、勉強が間に合ってなくて、おちおちサボってられないんだよねー」
「ああ、そう」
ちょっと会話をしただけなのに、もう浜はすぐそこで、そろそろこの背中からまた離れないといけないんだと思うと、また切ない気持ちになった。
会話を終わらせたくなくて、必死に話題を考える。
「そういえば、明日の夜肝試しあるでしょー?あれって教師も参加するのー?」
「あー、めんどくせぇけどな。さっきの佐久本との会話聞こえてたけどホラーだめなんだろ」
「あれはゆーいちが大袈裟に言ってるの!まぁでもべつにお化け役がいる訳じゃなくて、なんか山の奥にあるものをとってくるだけなんでしょ?」
「授業として山登りさせたら絶対サボるやつ続出するだろってことでな。あと熱中症にならないために夜やるんだろ」
会話が続くだけでうれしい。
この人の声はやっぱり癒される。
さっきまで死にそうだったはずなのに。
「でもさぁ。夜の山ってなんか不気味だよね。だれか迷ったりしないのかなー」
「ちゃんと道が作られてるコースだから大丈夫だろ。まぁなんかあったら呼べよ。番号教えたろ」
「………………あー、もう」
たまらくなって、せんせーの首に顔を埋める。海水が顔にかかったけどどうでもよかった。
何かあったら呼べよ。とか。
普通にかっこいいでしょ。
今まさに助けられてる最中なんだから余計に。
やっぱりこの人のそばにいたらだめだ。
どんどん好きになっていく。
オレの生き甲斐とも言える大切な親友の想い人なのに。
てか、この人に惚れない人なんているのかな。
なんて馬鹿なことまで考えてしまうくらい。
「せんせーのばかぁ。すきー」
「知ってる」
つい一ヶ月前までは毎日普通に言っていた言葉。
ふっと笑ったように聞こえて、体が暖かくなる。
どうか早くいいひと見つけて幸せになってほしい。
そして、早くオレの気持ちに区切りをつけさせて。
せんせーが幸せになってくれるなら相手はだれでもいい。
ゆーいちでもいいし、せんせーが他に心から愛せる人ができたならそれでもいい。
そう思う気持ちとは裏腹に胸に鋭い痛みが走る。
ちゃんと浜辺についたらこの人から離れるから、この心だけはどうかオレの支えとして留めることだけは許してほしい。
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