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暗転
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「ねぇ、ルリってさ、大学生だよね?ここのバイト定休日の水曜日以外毎日入ってるけど土日とか空いてない?」
夜、バイトに行くとまだ店もそんなに混雑していない暇な時間、常連客の1人、新野さんにそんな話をされた、
「なんでですかー?」
「絵のモデルお願いしたくて。ちゃんとお金払うよ」
新野さんは、画家さん。
オーナーの草薙さんのいとこらしく、せんせーや蒼羽さん以外でオレの性別を知ってる唯一のお客さん。
隣にいた草薙さんが「うちの子なに引き抜こうとしてんだ」と入ってきてくれた。
「いいだろ慎太郎。そっちのバイト優先でいいから少しの期間だけ貸してくれよ」
「お前、絵描き出したらぶっ続けじゃん。同じポーズで固定なんてしんどいだろ。ルリくんがいいならいいけど。嫌だったら気を使わず断っていいからね」
「ちゃんと30分に一回5分休憩つけるよ。時給2千5……いや、3千円でどう?短期だけどここより給料よくない?土日が厳しいならまとめて2時間以上来れる日×数日に分けてもいいよ」
「えっ」
時給3000円!?
しかも、出勤時間自由で?
まさか今日新しいバイト探さなきゃって思ってたタイミングでこんなことある?
ていうか、新野さんは結構有名な画家さんなのになんでモデルがオレ?
「なんなのお前、うちのルリくんでヌードでも描くつもり?」
「ちんこまで出せとは言わねぇよ」
「……お前ねぇ」
「え、それなら全然OKです。ていうかオレでいいんですか?」
草薙さんが少し低くした声を、つい遮ってしまった。
オレ男だし、下半身隠れるなら、多少脱ぐくらい全然アリなんだけど。
むしろ高時給で超ありがたい。
「え、ルリくんいいの?ほぼ丸裸にされるんだよ?」
「さすがにパンツまで脱げって言わらたらちょっと考えますけど、上脱ぐ程度ならどうってことないです」
よく考えて!と草薙さんに肩を掴まれるけど、普通にじゃない?
海での写真とかみんな海パン一丁でとるじゃん。それと変わらないと思うけど。
「よっしゃ!!!決まり!!邪魔すんなよ草薙。本人がいいっつってんだからな!」
「ちょっと待って。その話保留。すぐ確認するから待ってて」
確認?なんの?
そう聞き返す間もなく、草薙さんは後ろに引っ込んでしまった。
こっちのバイト優先でいいって言ってたし、シフトで迷惑かけることはないと思うけど。
「新野さんみたいな有名な画家さんのモデルがオレでいいんですか?」
「むしろぴったりだよ!古い洋館の椅子のアンティークに取り付く霊みたいなの描きたくてさぁ!不健康そうに痩せ細った青白い肌!男か女かわかんねぇ顔!大人とも子供ともいえない幼さの残る顔!西洋人ってだけで条件狭められるのにここまでピッタシの中々いないよ!」
………新野さんは目をキラキラさせて話しているのに、貶されてる気分になるのはなんでだろう。
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