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暗転

しばらくすると、草薙さんがスマホを片手に戻ってきた。 目があったから少しカウンターから離れて、駆け寄る。 「すみません。お店的に断った方がよかったですか?」 「いや、僕がルリ君がいいならいいって言ったし、そこは全然いいんだけど、脱ぐっていうのはねぇ〜」 うーん、と草薙さんがオレの顔と体を一周するように見て唸る。 その表情に、性的な目で見られないか、という心配が混ざってる気がして、自意識過剰だったら恥ずかしいけど念のため口を開いた。 「ちなみに絵のイメージは洋館に住み着く幽霊らしいですよ」 「ぶはっ」 草薙さんが吹き出したところ初めて見た。 この人もオレのこと貧相な体って思ってたなこのやろう。 クックッと肩を揺らしながら笑い、はー、笑った。と顔を上げた。 「まぁ、保護者に確認してみなよ」 「え?最初の頃お伝えしたように、両親イギリスだし放任主義ですよ」 「うん。だから、日本の保護者がいるでしょ?今、蒼羽さんに電話したらたまたま一緒にいたらしくて、軽く説明したらすぐこっちに来るって」 草薙さんの話に、ピシッと笑顔が引き攣った。 たしかに、以前草薙さん不在時にお客さんからセクハラまがいなことをされて親戚ですとか言って庇ってくれたことがあったかもしれない。 その話をお客さんか、スタッフから聞いたのかな。 今、お店に向かってる人物の顔が思い浮かんで、冷や汗が頬を伝った。 「元々こっちに来る予定だったらしくて近くで飲んでたんだって。すぐ来ると思うよ」 草薙さんは、固まるオレに構わず、爽やかな笑顔でつらつらと言葉を続け、最後に少しだけ困ったように笑った。 「いや、ごめんね?お節介かなぁとは思ったんだけど。一応、ほら、月城さんは蒼羽さんのご友人だし、そんな人の大切な親戚のルリ君の危険かもしれないこと知ってしまった以上、伝えなきゃじゃん」 それ、嘘ですよ草薙さん。 オレはあの人と一滴も血の繋がりなんてありませんから。 ていうか、今は知られたくないことがたくさんあって会いたくないんだけど。 なんで誤魔化そうか、とかグルグル考えてると、カランカランとドアベルの音が響いた。 「いらっしゃいませー」 つい反射的に笑顔で顔を上げると、いつもと変わらず飄々とした笑顔の蒼羽さんと、普段見たことのないほどの胡散臭い笑顔を貼り付けたせんせーが入ってきた。 絶対今は近寄りたくない。 すぐバックヤードに引っ込もうと後退りするオレの背中を草薙さんがポンっと押した。 「はい、今入ってきたお客様におしぼり持っていってね」 ……草薙さんの笑顔すら、今は胡散臭く見えてしまう。

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