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暗転
「そういえば、この近くに割と有名な神社があるんだけど、神社とかお前行ったことある?」
しばらく他愛もない話をしていると、ふと思い出したように千さんが聞いてきた。
「神社行ったことない。行ってみたーい」
「車で20分もかからないから、途中どっかで飯食うか」
「やったー。オレこの辺のご飯屋さんググるね〜」
こんなの本当にデートみたい。
他の人にも距離感こうなのかな。
オレ、どこまで期待していい?
来る時は手を貸そうか聞かれた石段。
帰りは自然と手を差し出してくれて、それに手を重ねてみても、来る時と変わらないくらい緊張してしまう。
「今から行く神社もぶいぶい言わせてた頃の溜まり場てきな場所ー?」
「……お前、日本語ちょっと偏って覚えてるよな。俺らの歳でも使う奴らいないぞ」
「そうなのー?オレの日本語のせんせーゆーいちのお父さんだからかなぁ」
「へぇ、どれくらいで今くらい喋れるようになったんだ?」
「母親が日本人とのハーフらしいから、漫画とかで少しくらい元々独学で勉強してたけど、ゆーいちのお父さんが翻訳の仕事してる人だからかすごくわかりやすくて、あの家に入り浸るようになってから1年くらいではかなり喋れるようになったと思う。でも漢字は未だに苦手〜」
ああ、懐かしいな。
発音が曖昧なオレに、難しいなら慣れるまでゆっくり伸ばして喋ってごらんって教えてくれて、それから間延びした喋り方が癖になったんだっけ。
ゆみちゃんが優しい口調に聞こえて素敵だねって言ってくれたから、今更直す気にはならない。
「音読みとか訓読みとかややこしいよな」
「そうそう!にんきのないと、ひとけのないとか同じ漢字なのに、読み方でニュアンスがかわったりさぁ。あと、漢字じゃないけど、大丈夫です、とか。イエスともノーとも取れるじゃん。苦労した〜。あとExcuse meとsorryがどっちもすみませんなのとかー」
「はは。典型的なとこでつまずくんだな」
千さんって聞き上手だと思う。
オレのどうでもいい話を軽く笑って聞いてくれることが心地よくて、つい自分のことばかり話してしまう。
オレも千さんの話聞きたいんだけどな。
「ねぇねぇ、今から行く神社は誰かと来たことあるところ?」
あ、しまった。
変な聞き方したかも。
なんか気になる人の昔の恋愛聞き出そうとする童貞みたいな質問しちゃった。
いや、正真正銘童貞だけどさ。
「いや、さっきこの辺に何かあるか調べたら出てきた。俺も初めて行くところ」
色々とモヤモヤ考えていたのに、千さんはさらりとそんなことを言ってくれる。
そんなこと言われたらさ、余計に楽しみになるじゃんね。
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