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暗転
近くで軽く食事を終わらせて、ついた神社は改装したのか、新しいのか、綺麗に整備されてて、散りばめられた砂利のひとつひとつすら丸くて綺麗だ。
大きな鳥居をくぐると、なんだか改めて海外に来たんだなって気持ちになる。
「すごいねぇ。めっちゃ日本!って感じ」
鳥居を越えてすぐ、小さな屋根が立っててなにか石の樽みたいなのに水が溜められている。
「なにこれ?これもしかして井戸?ってやつ?」
「手水舎。参拝する前に参拝者が手ェ洗うところ」
千さんがやってることを真似事でやってみる。
本来はうがいもするらしいけど、こういう水を口にふくみたくないから俺はしないって手だけ洗う千さんと同じようにオレも手だけ洗ってハンカチで手を拭きながら、奥に向かった。
拝殿っていうところでは、5円から15円とか25円とか語呂のいいものを投げるらしい。
5円でご縁ね。
パパさんがゆみちゃんに散々寒いと言われてたオヤジギャグってやつみたい。
オレは布団が吹っ飛んだでお腹捩れるほど笑ったけど。
お財布に小銭はちょうど25円入ってたからそれを投げ入れて、カランカランと大きな鈴を鳴らした。
なんとなく、ここでは喋っちゃダメな雰囲気があって、次どうすんの?と意味を込めて千さんを見上げると、2回お辞儀して、2回手を鳴らして、なんか手を合わせたまま固まって、もう一回お辞儀した。
ポーズだけ同じように真似して、その場を離れると千さんが口元を押さえてクックッと笑いを堪えていた。
「え、なになに?オレなんか間違えてたー?」
「いや悪い。リチェールの見様見真似感がわかりやすすぎて」
「だって初めてだもん」
「じゃああれも初めて見る?」
千さんが指さした小屋はカラフルで平らな包みをたくさん販売していた。
なにこれ。
なんか中国みたいなイメージのある刺繍だな。
中に何が入ってるの?
「これなにー?」
「御守り。持ってると厄から守ってくれるんだと」
そう説明する千さんが全然信じていないような声で説明してくれる。
うん、たしかに、占いとか迷信とか全然信じるイメージない。
オレもどちらかというと信じる方ではない。
でも、今日千さんとここに来れた記念にひとつ買っちゃおうかな。
信仰があるわけでもないし、それぞれ意味はあるみたいだけど、デザインだけどれにしようか決めることにした。
他の平らなものに比べて、丸っこくて可愛いデザインの御守りを一つ手に取る。
色はピンクと水色があって、迷わず千さんと同じ瞳の色をした方を選んだ。
「これください」
白と赤の着物を着た女性に手渡すと横から千さんが千円を取り出して、トレイに乗せた。
「千さん、いいよ。オレ自分で買うから。今日の記念にするの」
「高いものでもないし、今日は俺から声かけたんだからこれくらい奢られてろ」
そう言ってさっきのランチも出してくれたじゃん。
さすがに申し訳ないんだけど。
それでも、店員さんの前でこれ以上このやり取りを続けるわけにもいかないし、ありがとうと言ってその場を離れた。
「ねぇねぇ千さん、これ本当にオレお金出すよ。千円って普通に高いと思うし」
「俺とお前いくつ歳の差があると思ってんだよ」
そう言って千さんはクシャクシャとオレの頭を頭を撫でて、この話はおしまいと言うように先に歩き出してしまう。
本当にいいのかな。
これ、間違いなく宝物にする。
「ちなみにそれ、子供守りって言って、親が子供に待たせるような御守りだし、大人が子供に買うものだろ」
大人は千さんを指してて、子供はオレを指してる。
「そーゆーのオレが選ぶ前に教えてよー」
「書いてあっただろ」
全然見てなかった。
でも、やっぱりデザインがこれがいいんだからいいんだ。
「じゃあ、本当に貰っちゃうよ?」
「ん。お前は変な奴に狙われやすいし、気休めでも一つくらい持ってて損はないだろ」
「あ、信じてない人の口ぶりだー」
先を歩く千さんの後ろを追いかけて、服を引くと綺麗な空色にオレが映る。
「この御守り、効果絶大だよ。オレ今めっちゃ幸せだもん。ありがとう千さん」
「そうかよ」
信じてるのか信じてないのかわからない口調で千さんが笑う。
ねぇ、ほんとだよ。
オレ今日一日まるで夢でも見てるみたいに幸せ。
例えば明日死んだとしても後悔なんて一つもないって思えるだろうな。なんて、そんなこと考えるくらい。
こんなにも幸せなことがあったから、全部うまく行く気がしたんだ。
オレは、過去を全部精算してこの人とまたこうして過ごせる未来を信じていた。
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