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暗転
頭が揺れて立ち上がれずにいると、家の鍵を開けられてしまった音が聞こえる。
胸ぐらを掴まれそのまま玄関に投げられた。
『はは。なに、お前そんな顔いつからするようになったの』
目の前の男がオレの顔を見て楽しそうに笑う。
『怖いんだ?今まで何しても、すました顔してたくせに』
怖い?オレが?
は、今さら。こんなの、何回も何回もしてきたことだ。
『やめろよ……』
それなのに、自分から出た声は情けないほど弱々しかった。
『で。寝室どこ』
『なん、で…』
『お前が誰のものなのかしっかり教えてやらないと。なに?日本にいたらもう大丈夫だと思った?』
バシッと頬を叩かれて横を向く。
『甘いよ。お前はどこにいたって僕だけのエリシアなんだから』
もう何度も聞いた台詞に悪寒がした。
服に手をかけられ咄嗟に振り払う。
唯一鍵がかかるトイレに逃げ込んで千さんに電話しようと携帯に手をかけたけど、前に蹴られ崩れこむ。
携帯は遠くに投げられてしまった。
『ほんと、反抗的。でも今のエリシアの方が感情があっていいね。特別に今日は優しくしてあげる』
にっこり笑って、オレの前髪をつかんで顔を合わせた。
『………っんぅ』
そのまま乱暴に口付けられて舌を絡められる。
気持ち悪くて、押し返そうとしてるのに、びくともしない。
何度も角度を変えて貪られ、息が苦しい。
『……っはぁ』
『ははっ。さっき殴ったとき口でも切った?血の味する。ごめんね?』
悪いとなんて思ってないくせに。
ふざけるな。
『あー、まだ反抗的だな。僕、そんな力ないし。あんまり抵抗しないでよ」
抵抗できないようにするためか、何発か殴られ倒れ込んだところをネクタイで両手を縛られた。
抵抗できないままベットに投げられ、目の前が真っ暗になった。
……数分前まで、幸せな気分だったはずだ。
股がられ、息を飲む。
『お願い………やめて………』
『うん、やめないよ?』
やめてと懇願しても嬉しそうに笑うだけ。
それなら、いつものようになにも考えないで終わるのを待てばいいのに。
どうしても、手の震えが止まらない。
『大丈夫、今日は気持ちよくしてあげるから。なんかその方が嫌そうだし?』
シャツを捲られても、手を縛られて大した抵抗もできない上に、殴られたところが軋むように痛い。
『ねー、エリシアが僕に逆らうなんて中々ないじゃん?
どうやって躾直そうか考えて、色々準備してきたんだよ』
楽しそうにカバンからなにかを取り出した。
『あはは。震えてる。大丈夫痛くはないよ。多分ね。目隠してあげようか?注射とかそのほうがよかったもんね』
『やだ…っさわんな!』
『ほら、暴れちゃダメでしょ』
脇腹を殴られて、噎せかえる。
どう抵抗したって、されるがままになってしまう自分がひどく小さな存在に思えた。
目を布で覆われ、何が起こるかわからない恐怖に体が震えた。
『………っ』
両胸に、なにか冷たい無機質なものを付けられた感触がして息を飲んだ。
『なにこれ………』
『なんだろうね』
テープでとれないようにしてるのがわかる。
それを下にも付けられて、自分が今どんな状態なのか想像したら死にたいくらいだ。
『と………って。おねがい。とって……』
情けなくて、怖くて、気が狂いそう。
千さんの顔が浮かんでは泣きそうになるのをこらえることで精一杯で悔しかった。
『あぅ……っ』
いきなりつけられたものが振動して、びくっと体が跳ねる。
『ん、やだ!これ、とって!やだ!』
『ふふ。エリシアこんな声出たんだ。かわいい』
ぞくぞくと体が反応して、涙が溢れた。
『いや!………んぅ』
叫ぶ口をキスされ、舌を弄ばれた。
何かを飲ませようとしてるのがわかったけど、体に力が入らなくて受け入れてしまった。
『ん、ん…っはぁ』
やっと口を放され息を吸い込むと、途端に振動が激しさを増した。
『ぅあっ』
『今飲ませたのはちょっと法外な強めの媚薬。
いくら速効性とはいえまだ効いてないと思うんだけど』
『とめて!おねがい!ん、とめてぇっ』
気持ち悪い。
気持ち悪いのに、感じてる自分が気持ち悪い。
なに飲まされたのか想像はついたけど、聞く余裕なんてもうなかった。
『お前は僕だけのエリシアなんだよ。わかる?』
『くそ、はなせっ!』
『なに?泣いてるの?
こうなるなら日本に行かせて正解だったかも』
悔しい。でも、もうされるがままになんて、なりたくなかった。
───お前は俺のなんだろ。
オレは、父さんのものなんかじゃない。
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