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暗転

『あーもう、強情だなぁ』 『ひ……っ!』 足を開かれ、一気に後ろを貫かれて激痛が走った。 こいつ、いきなり。 ふざけんな、と叫びたかったのに痛みで声が詰まる。 ろくに慣らされずに、挿れられることは昔からだった。 本来受け入れる場所じゃないそこが裂けて血が出ようがそのぬめりを都合がいいというようなやつだ。 痛いのに何回も突かれて、段々と乱暴な快楽に変わっていく。 もう気持ちいいのか、痛いのか分からなかった。 『あー、スッゴいしまってる。きもちいい』 『あっ、あっ、やだ…っ』 『ふ。自分だって勃ってるくせに』 頭も段々ボーッとしていくのに、体だけは敏感で、もうただの苦痛だけだった。 『ねー、もう素直に謝って僕のだって認めちゃいなよ。だってお前は僕だけのエリシアなんだから。イギリスに帰ろう』 下唇をかんで声を耐えて、必死に首を横にふった。 『認めたら、やめてあげるかもよ?』 『……………も、やめてっ』 そこだけは、絶対に認めたくなかった。 苦しくても、体が限界を迎えても、オレはあの人のものでいたい。 『オレ、他の人にも抱か、れた………っ』 『は?』 それを口にするのはひどく屈辱的だった。 父親の動きが止まる。 『ほん、とだよ。他の男にも四人に抱かれた……っもう…あんただけのエリシアなんかじゃ、ない……』 だからもうやめて。と続けようとした瞬間、思いっきり頬を殴られた。 『ふざけるな………』 『んぁっ』 一気に引き抜かれて、悲鳴のような声が漏れる。 『汚ねぇなぁ!汚い!汚い!』 何度も、何度も殴られ、声も声もでない。 父さんの声だけが届いた。 『抱かれるしか能のない代用品が…』 最後に力一杯蹴りあげられ、床に転がる。 舌打ちをして、父親は部屋を出ていった。 一人残されて、身体中の痛みで起き上がることさえ出来なかった。 縛られた両手でなんとか目隠しをとって、口を使って手の拘束もといた。 ────汚ぇな。抱かれるしか能のない代用品が。     父さんの言葉いつまでも頭のなかで響く。 今さらあの人に何を言われたって平気なはずなのに、涙が次から次へと溢れて止まらない。 多分、言われた言葉が図星だったから。 汚いのも、母さんの代用品に過ぎないのも分かってた。 だから、今さら傷つくのはおかしい。 「………ふっ」 こんなことで、泣くなんて余計惨めなだけなのに。 軋む体を引きずって、カバンから今日もらったお守りを取り出した。 ぎゅっと握ると、少しだけ体の震えが止まった。 ほんの数十分前まで、幸せだったはずなのに。 でも、最後までされなかった。 今回は無事ですんだと言っても過言ではないでしょ。 もっと早く他のひとに抱かれたっていえばよかったのかもしれない。 自分を守る術がそれしかないなんて、つくづくオレは。 自虐的な笑いがこぼれる。 薬の効果が切れなくて、体がびりびり痺れていた。 でももうどうにかする気力もなくて、目をつぶった。

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